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『愛蔵版 神々の山嶺』上巻 夢枕獏(作) 谷口ジロー(画) 【日刊マンガガイド】

2016/03/08


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『愛蔵版 神々の山嶺(いただき)』


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『愛蔵版 神々の山嶺』上巻
夢枕獏(作) 谷口ジロー(画) 集英社 ¥1,100+税
(2016年2月2日発売)


本作は2000年より3年にわたって連載、2001年に第5回文化庁メディア芸術祭マンガ部門・優秀賞を受賞した本格山岳マンガ。
原作は、『陰陽師』などでも知られる夢枕獏の同名のベストセラー小説だ。
3月12日より岡田准一主演による実写映画が公開されるとあり、今また注目が集まっている。

主人公は山岳カメラマンの深町誠。エヴェレスト登山隊に同行したものの登頂が失敗に終わり、カトマンドゥの街をぶらついていたおりに深町は、古道具屋で年代物のカメラを見つける。
深町は、これはエヴェレスト初登頂のカギを握るカメラではないかとにらむのだ。

エヴェレスト初登頂の記録は1953年だが、じつはそれより30年ほど前にイギリスの登山家マロリーとアーヴィンが登頂に成功した可能性があるといわれる。2人は生還せず、ずっとあとに頂上近くで発見されたマロリーの遺体のそばでカメラが発見されたのである。
だが、そのなかに証拠となるはずのフィルムはなかったのだ(このカメラのミステリは実話にもとづいている)。

深町はカメラの出どころを探るうちに、ひとりの日本人男性と出会う。彼はどうやらこのカメラについて何か知っているようなのだが、自分の名前さえ明かさないで去っていこうとする。
しかし、深町は彼の軽く足を引きずる歩き方を見た時に思い出すのだ。あれは、かつて天才クライマーと呼ばれた羽生丈二である、と……。

深町が、過去の羽生を知る人々に出会いながら、羽生の人となり、日本の登山界から姿を消した理由を紐解き、また彼がなぜ人知れずカトマンドゥに暮らしているかに迫っていく様にぐいぐい引きこまれる。
原作小説の力はもちろんのこと、常人ならば一生触れることのない苛酷な雪山の臨場感、登山家の孤独と葛藤、絶望に立ち向かう強靱さを伝える谷口ジローの描写力は随一だ。

深町は、50代に近づいた羽生がまだ登山家として大きな野望を持っていると知る頃には、彼に魅了されきっていた。そして、彼の無謀ともいえるアタックに同行しようと心を決めるのだ。

現実のエピソードを絡めた“カメラ”のミステリーと、羽生の内面に迫るドラマと……重厚感あふれる読みごたえの一大エンターテインメント。
上中下巻、一気読み必至、感動のラストにはだれもがあたたかい涙を流すだろう。

人間は矛盾を抱えた生き物だが……答えなきものを追求し続ける姿に心揺さぶられる読後感だ。



<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
ブログ「ド少女文庫」

単行本情報

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