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【日刊マンガガイド】『Deep Water〈深淵〉』 清水玲子

2014/07/15


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『Deep Water〈深淵〉』
清水玲子 白泉社 \796+税
(2014年7月4日発売)


福岡で姿を消した4歳の少女が、熊本の湖で遺体となって発見された。熊本県警が捜査に動くなか、少女の居住地・福岡県警の高比良澄(たかひらとおる)が現場へとやってくる。
遺体の状況から、「ドラローシュの『若き殉教者』」の絵画を連想し、宗教的なメッセージを読みとる高比良。
卓越した判断力と推理力を見せるスマートな高比良だったが、一方で彼は汚れや匂いに過剰なまでに反応してしまう強迫性障害を患ってもいて……!?

清水玲子の14年ぶりの完全新作は、冒頭からスリリングに走りだす。
サスペンスと笑いの緊張と緩和がそのスリルをさらに高め、また物語に結ばれていく。
一見、ギャップがもたらすおかしさに思える高比良の潔癖症にしても、「この症状を直すためにも 解決しないといけない事件があるんです」と語られ興味は深まる。
その事件とは、ある少女が関わっていた、6年前の事件。

湖に浮かぶ死体、宗教的なモチーフと、偶然とは思えないほどに、今回の事件は高比良が語る6年前の事件と重なる。はたして、今回の事件も6年前の少女が犯人なのか。そんななか、新たな事件が!

ミステリーということで、その結末にいたるストーリーには詳しくは触れられないが、さまざまな断片がひとつに繋がっていく様は、圧巻のひと言。作者の『秘密-トップ・シークレット-』同様、質のいい海外ミステリーや海外ドラマのような味わいだ。

クローンを扱った『輝夜姫』では、同じ顔を持った人の違う運命が描かれたが、本作では違う顔を持った人の同じ運命――同じでありがら決定的に違ってしまったことの悲劇が描かれる。
加えて、骨太で社会性もありながら、繊細な人間ドラマになっているあたりは、清水玲子ならでは。

高比良に嫌がらせをする、下品で無神経な溝口という刑事がいいエッセンスになっているが、クセもアクも強い男を最終的にかわいらしくもカッコよくも描けるのは、やっぱり女性の視点あってだろう。
そして事件自体も、女性ゆえの悲しさ、怖さ、強さに繋がる。緊張と緩和だけでなく、ソフトな女性マンガとハードなミステリーの柔と剛の魅力もある1作。

女性はもちろん、男性にも読んで欲しい作品で、エンタテイメントとしても「深淵」だ。



<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Summer」が発売中。DVD&Blu-ray『一週間フレンズ。』ブックレットも手掛けています。

単行本情報

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