365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
6月8日は世界海洋デー。本日読むべきマンガは……。
『手塚治虫文庫全集 海のトリトン』第1巻
手塚治虫 講談社 ¥950+税
6月8日は、国際的な記念日である「世界海洋デー」。
もとは1992年の本日に開かれた地球サミットにて提唱されたもので、2009年より正式に国連の記念日として制定された。
その趣旨を要約すると「海の環境と安全を守ることは、人類の責任である」といったところだが、そんな記念日に読んでいただきたいマンガといえば……海を舞台にした作品は数あれど、やはり手塚治虫の代表作のひとつである『海のトリトン』をまずはオススメしておきたい。
本作はテレビアニメ化された映像作品のほうで知っている人も多いとは思うが、原作とアニメでは登場人物や設定がかなり異なっていることはご存じだろうか?
もちろん、手塚治虫のどメジャー作品だし「読んでて当然!」……と言いたいところではあるが、アニメの直撃世代の人に「原作にはオリハルコンってまったく出てこないんですよ」とか言うとたいがい驚かれたりするのもまた実情だったりする(※少なくとも観測範囲では)。
そもそも当初は主人公がトリトンですらなく、アニメに登場しない矢崎和也という人間の少年を軸に物語が展開するのだが、ほかにもトリトンに海中での戦い方を指南する丹下全膳や、トリトンに心惹かれ、大きな役割を果たす少女・沖洋子、さらにトリトンをつけ狙うポセイドン族の刺客でありながら、その洋子に情愛の念を抱く怪人・ターリンなど、原作のみに登場する重要キャラクターは多数。
そして何よりも重要なのは、トリトンと人間との出会いはアニメ以上にセンシティブな問題をはらみ、人間の身勝手さが強調されていることかもしれない。
『海のトリトン』の原作においては、人間が海洋汚染などにもう少し敏感でいれば回避できたであろう悲劇もたびたび描かれている。
そして海に生きる者からの視点もしばしば登場する本作は、「世界海洋デー」に読むにはピッタリだろう。
ちなみにテレビアニメのほうは、ご存じの方も多いとは思うが、西崎義展の初プロデュースアニメ作品にして、富野由悠季(当時は富野喜幸名義)の初監督作品。
『宇宙戦艦ヤマト』のプロデューサーと『機動戦士ガンダム』の総監督が名を連ねるというだけでもとんでもないのだが、守ろうとする人類に追われる立場となるトリトンや、最終的に悪と思われていたポセイドン族がじつは……といった衝撃の展開など、言わば富野作品の原点とでも言うべき要素が凝縮されていることでも超重要な作品である。
原作は手塚治虫全集版で全4巻、アニメも全27話と、どちらも濃厚な内容のわりにはコンパクトにまとまっているので、未見の人は原作・アニメあわせてぜひ触れていただきたい。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。