日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『日の鳥』
『日の鳥』第2巻
こうの史代 日本文芸社 ¥900+税
(2016年5月30日発売)
妻の面影を探してさまようニワトリの雄鶏を狂言廻しに、3.11以降の東日本の姿を一枚画と詩で描いたシリーズ第2巻。
夏草の生い茂る普通のままの線路、今ではハトやスズメでにぎわう廃墟となった小学校、バスの車窓から見る除染作業中ののぼり、震災を生きのびた樹、着実に復興へと向かう工事現場……。
そんな諸行無常な風景のなかにぽつんとたたずむ雄鶏。たとえ愛する人がいなくなっても、残された者の人生は続いてゆき、彼らが愛した風景もやがて少しずつ姿を変えてゆく……。
そんなせつなさと同時に生命の力強い営みを体現するスケッチと、雄鶏の抒情的でユーモラスなつぶやきには、被災者はもちろん、そうでない者も我が身を重ねずにいられない。
これまでにも戦時下を舞台にした『夕凪の街 桜の国』、『この世界の片隅に』といった作品を通じて「非日常の中の日常」を慈しみをもって描いてきた著者。
本作にはストーリーらしきものはないが、時の流れのなかで埋もれてゆく事実を自らの手で調べあげ、無数の声なき声を普遍的な物語へと紡ぎ出す眼差しは、まさにオリジナル『火の鳥』さながらの「神の視点」であり、他の追随を許さない圧倒的なものがある。
各ページには、著者が現地を訪れた際の印象やなにげないエピソードが率直な言葉で綴られており、震災以降の日々の記録としても貴重だが、自身のよく知る風景をそこに重ねて見れば、また違ったものも見えてくる。
一連の報道写真とはまた異なる、抽象的な「絵と言葉の力」を感じさせる1冊だ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69