日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい！WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー！

今回紹介するのは、『九条くんの美味なる放課後』

『九条くんの美味なる放課後』 第1巻
jam3 講談社 ￥620+税
（2016年7月15日発売）

「トーキョートチジセン、お前誰にトーヒョーするの？」中華料理屋でビールを飲んでいると、隣の席の話が耳に入った。男子大学生らしき4人組。その時は、都知事選がホットな話題だったのだ。
思わず耳ダンボ（死語！）になる私。

「俺、埼玉県民だから選挙権ない」「マジで？　トチジセンって全国民でトーヒョーするんじゃないの？」ワオ！　土曜の夜の中華料理屋を一瞬凍らせるポップな発言☆
しかしこれがゆとり世代か……。聞きしに勝るインパクトやで。

まったく、九条くんが聞いたらなんていうか。

九条くんとは『九条くんの美味なる放課後』の主人公・九条流（くじょう・ながれ）である。
九条グループの御曹司で、「超巨大な食のテーマパークをつくる」というプロジェクトのため、庶民の通う高校に転入。クラスメイトといっしょに、庶民の食生活を調査しているのだ。

第1巻に登場するメニューはこちら。
放課後の腹ペコにしみる、コンビニのチキン。電車が来るまでにかきこまなきゃ！　な、駅のホームの立ち食いコロッケうどん。気前のよいおばちゃんの店の、お肉たっぷりガッツリ牛丼。
市民プールで遊び疲れたあとに食べる、自動販売機のカップラーメン……などなど。

セレブな九条くんにとっては、そのすべてが生まれて初めて食べるもの。
腹ペコを我慢しながら店を探すのも、行列に並ぶのも、もちろん初めてだ。

あまりのうまさに感動し、「シェフを呼べ」とかいっちゃう九条くんの世間知らずっぷりをカバーしてくれるのは、「いかにも普通な高校生」のクラスメイトたち。

最初こそ、とんでもないお金持ちの九条くんに引いていたけど（学校に黒子を引き連れてくるくらいですからね）、今ではすっかりいい友達。
河原までチャリンコ飛ばしてコロッケパンにかぶりつく仲だぞ☆

そうそう。食事のおいしさは、シチュエーションにも大きく左右されるんだよなぁ。

高校生の青春×気取らないごちそう。『九条くんの美味なる放課後』を読むと、食べものの描写がおいしそうすぎてお腹すいちゃうけど、心はものすごく満たされる。ぜひご賞味を。

＜文・片山幸子＞
編集者。福岡県生まれ。マンガは、読むのも、記事を書くのも、とっても楽しいです。