日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ジョジョリオン』
『ジョジョリオン』 第13巻
荒木飛呂彦 集英社 ¥400+税
(2016年7月19日発売)
今さら何を……と思われるかもしれないが、『ジョジョリオン』がたまらなくおもしろい。
ご存じの方も多いとは思うが、『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズは、第6部において「宇宙が一巡」という壮絶な結末を迎えたことによって、次作の『スティール・ボール・ラン』からは、パラレルワールドに突入。それに伴い、過去作との関連を想起させるキャラクターが登場するようになったが、現在進行形の『ジョジョリオン』では、その傾向に拍車がかかっている。
特に最新第13巻では、単にキャラクターの名前だけにとどまらず、思わぬところでシチュエーションや構図までもが意図的に引用されているのが印象的だ。
これまでも『ジョジョ』では、絵画やファッション、あるいは映画などあらゆるカルチャーから大胆ともいえる参照が行われてきたが、それがいわゆる「パクリ」とはならず、まぎれもない『ジョジョ』の世界の一部となっていたのは、荒木飛呂彦が持つ強烈な個性と作家性がなせるわざ。
それゆえ、引用の対象が自分の作品になっても、安易な「自己模倣」に陥ることはなく、そのオリジナルを知る読者であれば「うわ、ここでこうきたか!」と、衝撃を受けることは間違いないだろう。
中盤のボートでの会話は、まだ「これ、5部で見たような……」という程度かもしれないが、最終盤での意外すぎる引用は(未読の方のために何が元ネタかはあえて伏せておくが)、本当にド肝を抜かれる思いで、3度見ぐらいした読者もきっと少なくないだろう。たぶん。
もちろん、そうした過去への参照だけではなく、数々の新たな表現にも要注目。
特に、前巻より登場した強敵・田最環(だも・たまき)の描写が白眉だ。これまで、どんなゲス野郎であってもやたらスタイリッシュかつファッショナブルであることが多かった『ジョジョ』において、たしかに独特のセンスは爆発しているものの、おおよそ「カッコいい」からは大きく外れたそのルックス。
そんな登場直後はユルさすら感じられた彼が、「ヒィィィィィ、もうやめて!」といいたくなるほどのおそるべき本性をいよいよ発揮しまくるのも最新巻の見どころ。やはりこれでこそ『ジョジョ』ッ!
もっとも、本巻の最重要ポイントは東方定助が今の姿となる過程が描かれるエピソードではあるのだが、それをさしおいても田最環のかつてない「不快感」と「残忍性」が、いい意味でヤバい。
それにしても、今や作品が「アート」として世界的な評価すら獲得しているにもかかわらず、まだまだ『ジョジョ』は進化と変化が止まる気配すら感じられないのが本当にすばらしい。
メインのストーリーは、まったく展開の先行きが読めない感もあるのだが、もはや「この話、どうなるの?」を気にするよりも、いつまでもこの世界に身をゆだねていたい気配さえ濃厚だ。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。