9月8日は国際識字デー。本日読むべきマンガは……。
『いきのびる魔法 ―いじめられている君へ』(『うつくしいのはら』所収)
西原理恵子 小学館 ¥1,000+税
9月8日は国際識字デー。イランにて、1965年9月8日からテヘラン会議が開催されたおりに、教育の振興など近代化を進めていた当時のイラン国王が、各国の軍事費1日分を識字基金として出しあうことを提案したのがきっかけだという。
識字率が高い日本にいるとなかなか実感しづらいが、世界人口の約5人に1人は文字の読み書きができず、なかでも女性の割合が高い。
そのため、就ける仕事がかぎられ、または正しい知識を得ることができず、子ども世代にも貧困が連鎖する。
西原理恵子の『うつくしいのはら』では、スラム街か難民キャンプと思われる地域に暮らしながら、希望に満ちて字を習いにいく少女が描かれている。
字をおぼえるといいことがいっぱいある。そう信じる少女が、野原で見つけたものは……。
わずか12ページの短い作品だ。そのなかに戦争の残酷さ、貧困の悲惨さ、それでもなお生まれる希望がつまっている。
『毎日かあさん』、『ぼくんち』、『ダーリンは70歳』などヒット作を連発する著者の最高傑作とも評される。
『うつくしいのはら』は、もともと「PLUTOによせて」とサブタイトルが付されて『営業ものがたり』に収録されていた。『このマンガがすごい!2006』オトコ編の台1位を獲得した浦沢直樹の『PLUTO』へのオマージュとして発表されたものだ。
著者作者お得意の売れっ子作家への「咬みつき芸」の一環だったはずが、不意打ちで泣かされた、などと話題になっていた。
現在入手しやすいのは『いきのびる魔法―いじめられている君へ』で、朝日新聞に寄稿したいじめに苦しむ子どもたちへのメッセージを絵本化したものと併録されている。
表紙に付された絵は『うつくしいのはら』につながり、決して海の向こうの話ではないと気づかされる。
字を知ることは、知識を得ること。また、言葉を通して得る想像力で、救われることもある。
作者は、美容整形などで財を成した、現在の恋人である高須克弥院長とともに、発展途上国の教育への援助を行っているそうだ。
とても長い時間がかかるかもしれないが、地球上の子どもたちが、1語でも多く文字を覚え、人に産まれた喜びを味わえるように、願いながら読みたい。
<文・和智永 妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。