365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
9月26日は核兵器の全面的廃絶のための国際デー。本日読むべきマンガは……。
『講談社漫画文庫 沈黙の艦隊』 第1巻
かわぐちかいじ 講談社 ¥740+税
9月26日は国連によって定められた「核兵器の全面的廃絶の国際デー」。
核兵器が人類に及ぼす脅威と、核兵器廃絶の必要性の認識を高めることを目的とした記念日であるが、その由来となった1983年9月26日の事件をご存じだろうか?
事件の主役となったのは、ソビエト連邦(1991年まではロシアではなくソ連でした)の戦略ロケット軍所属だったスタニスラフ・ペトロフ中佐。
当時はまだ冷戦のまっただなかであり、しかもソ連軍による大韓航空007便撃墜事件の影響などで、米ソの緊張が非常に高まっていたタイミング。
そんななか、ソ連の監視衛星による核ミサイルの早期警戒アラームが作動。もしそれに従って迎撃ミサイルが発射されていれば、当然のごとくアメリカも報復のためのミサイルを発射し、ひょっとすると9月26日は「人類最後の日」になっていた可能性すらあったのである。
だが、そうはならずにすんだのは、ペトロフ中佐が処罰を覚悟で「独断によって警報は誤報であると判断したから」とされている。
実際、のちの調査によって誤報であったことが確認されたのだが、もし警報を真に受けていたら……と思うと、ゾッとするどころの話ではない。
そんなワケで、一日も早く核兵器が廃絶されることはおそらく全人類の願いであるとは思うのだが、様々な理由によって現在もその実現には至っていない。軍事によるパワーバランスは、なかなか善意だけでどうにかなるほど簡単ではないのである。
しかし、マンガの世界ではおどろくべき手段で核廃絶への道筋を示した人物がいる。それが『沈黙の艦隊』の主人公・海江田四郎(かいえだ・しろう)である。
あらためて『沈黙の艦隊』の概要をまとめておくと、日本とアメリカが共謀し「初の国産原子力潜水艦」を秘密裏に建造。
そして表向きはアメリカ海軍所属の「シーバット」とされたその原潜の艦長に選ばれた海江田だったが、その性能を見抜くや乗組員とともに反乱を起こし原潜ごと逃亡。艦を「やまと」と命名したうえで、潜水艦そのものを「独立戦闘国家」として宣言する。
それによって世界の軍事バランスが変容していく様を描いたポリティカル・フィクションが本作である。
もちろん『沈黙の艦隊』といえば、大胆かつ緻密に練られた潜水艦バトルも魅力ではあるのだが、人類の手に余る「核兵器」をいかに処するのかということも大きなテーマとなっている。
「やまと」の存在によって、米ソが隠しもつ核ミサイルを搭載した潜水艦をすべて浮上させるに至る展開は圧巻。
それをきっかけとした軍縮への動きはぜひ作品を読んでいただきたく思うが、逆にいえば、「原子力潜水艦が独立国家を宣言」ぐらいの大事件が起こらないと世界は軍縮や核廃絶に向かわないのか……というのも皮肉な話かもしれない。
なお「核兵器の全面的廃絶の国際デー」は2018年までに核廃絶のためのハイレベル会合を招集する、ともされている。
はてさて、現実の世界では「話しあい」によって核廃絶への道を歩めるのか? そちらも注視していきたいところである。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。