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『VSルパン』 第3巻 モーリス・ルブラン(作) さいとうちほ(画) 【日刊マンガガイド】

2016/10/22


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『VSルパン』


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『VSルパン』 第3巻
モーリス・ルブラン(作) さいとうちほ(画) 小学館 ¥429+税
(2016年10月7日発売)


 フランスの作家、モーリス・ルブランが生み出した〈アルセーヌ・ルパン〉シリーズ……と堅く紹介するよりは、「ルパン三世」のおじいちゃんにあたる人物の冒険譚といった方がわかりやすいだろうか(それいいすぎか)。その〈アルセーヌ・ルパン〉シリーズを、『少女革命ウテナ』などの、さいとうちほがマンガ化したのが本書『VSルパン』である。

題名の『VSルパン』とは、著者によると「顔があるようで無いルパンは、いつも誰かと、時には自分と戦っています。だから『VS』です」と、いう意味あいでつけられたもの。
しからば第3巻はVSカリオストロ伯爵夫人となろうか。

第3巻では、前巻から続くカリオストロ伯爵夫人との対決、そしてクラリスとの恋物語に一応の決着がつく(「一応の」とした意味は、読んでご確認ください)。

カリオストロ、クラリスという名前から、宮崎駿のアニメ映画『カリオストロの城』を連想される方も多いだろうが、そのネーミングの原点となったのが、本書の原作であるルパン物の長編『カリオストロ伯爵夫人』(1924年)なのだ。

『カリオストロ伯爵夫人』は、シリーズ後期の作品だが、登場するのは20歳のルパンである。「怪盗紳士」として華々しく暴れまわる前の、駆け出しの時代だ。

初々しいルパンが、貴族の娘・クラリスに恋心を抱きつつも、妖艶な女盗賊・カリオストロ伯爵夫人に魅了される……こうした三角関係の行方と、フランスの歴史にも関わる壮大な謎が明かされるところが本書の読みどころである。

また、原作を再構成し、『奇巌城』のエピソードを盛りこむなどして、さいとうちほは、ルパンの「最初の妻」であるクラリスとの結婚生活の物語をふくらませている(そうした部分について、作者は「二次創作に近い感じ」と述べている)。このあたりを原作と対比してみるのはおもしろいかと思う。

なお、〈アルセーヌ・ルパン〉シリーズのコミカライズとしては森田崇『怪盗ルパン伝 アバンチュリエ』も連載中である。アトランダムに作品を選択している『VSルパン』に対して、森田は原作小説の順番に沿ってマンガ化してきている。
森田は、さいとうとはまた違ったルパンの描き方をしているので、このあたりの比較もまた楽しからずやである。



<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。、「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。「2016本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。

単行本情報

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