日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『新装版 黒薔薇アリス』
『新装版 黒薔薇アリス』 第6巻
水城せとな 小学館 ¥429+税
(2016年10月7日発売)
『失恋ショコラティエ』、『脳内ポイズンベリー』の水城せとなの未完の名作『黒薔薇アリス』の新装版第6巻が刊行された。
100年前にヴァンパイアとなった主人公ディミトリと、彼が日本に渡ってともに暮らす従者たち。
彼らは、人間よりも長い寿命や様々な特殊能力を持ちながら、繁殖をすると絶命してしまう「吸血樹」である。ディミトリがヴァンパイアになる前に愛し、しかし決して結ばれることのなかった少女アニエスカの死体に、日本人の成人女性の魂が移植され、本作のもうひとりの主人公とも言える「アリス」が生まれる。
アリスは、ヴァンパイアの繁殖のためにディミトリが生み出した存在であり、「種としての吸血樹の未来のために、より優れたオスを選ぶ」という使命が与えられている。
一見したところイケメンぞろいのヴァンパイアたちに囲まれて、自身も100年前のヨーロッパ貴族の美しい令嬢の肉体を得たとはいえ、アリスはもとは日本人女性。
逆ハーレムだ!と素直に喜ぶこともできないし、何より彼らのなかから「繁殖」のための相手を選ばないといけないという過酷な状況。
『失恋ショコラティエ』で披露された悲恋とユーモアの両立、『脳内ポイズンベリー』で発揮された巧みな心理劇、そしてそれ以前の短編などに見られたファンタジー要素などをつめあわせた現時点での水城せとなの集大成のような傑作で、現在でもファンの多い『黒薔薇アリス』。
未完ではあるものの、第一部が新装版としてまとまったこの機会に、ぜひ手にとってみてほしい。
なお、新装版を刊行している小学館フラワーズ編集部に確認したところ、具体的には明言できないものの、第二部以降の執筆の予定はあるという。
2017年には舞台化も予定されているということなので、これからの展開から目が離せない。
<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
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