話題の“あの”マンガの魅力を、作中カットとともにたっぷり紹介するロングレビュー。ときには漫画家ご本人からのコメントも!
今回紹介するのは『昭和元禄落語心中』
『昭和元禄落語心中』著者の雲田はるこ先生から、コメントをいただきました!
『昭和元禄落語心中』 第10巻
雲田はるこ 講談社 ¥581+税
(2016年9月7日発売)
アニメ化もされて好評を博した『昭和元禄落語心中』が、ついに最終巻を迎えた。
2017年1月にはアニメ第2期が予定されており、いま一度、本作を読み返している読者も多いことと思う。
本稿では最終第10巻についてレビューするが、最終巻は物語のエピローグ的な位置づけにあるため、この記事には作品の根幹的な部分についても言及するので、ネタバレ要素を含む点についてはあらかじめ了承してほしい。
この10巻では“子ども”に焦点が当てられている。
小夏の懐妊、小夏の出生の秘密、樋口センセイの推理……。特装版の小冊子では、さらにそのあたりが掘り下げられていく。
そして、作中で口演される演目は「寿限無」に「初天神」。
「寿限無」は生まれた子どもがかわいいあまりに親の欲目で「ありがたい名前」をいくつもつなげ長くなってしまう噺で、「初天神」は天神様のお参りに子どもを連れていった父親が子どもに振りまわされる噺。
これまで作中では大根多を演ることの多かった八代目八雲が、“子ども”を前にして「寿限無」をうれしそうに演るくだりは、それだけで胸がいっぱいになる。
そういえば家庭環境が語られる機会の少なかった松田さんにも、お孫さん(曾孫?)とおぼしき子どもがそばに連れ添っているシーン(128ページ)がある。
思い返せば松田さんは、この作品を縁の下で支える名バイプレイヤーであった。
このように10巻は、とかく“子ども”がクローズアップされている。
かつて七代目八雲が「子別れ」[注1]を演った際(4巻其之七)には、菊比古(八代目八雲)がこの噺を「有楽亭のお家芸」と評しているように、この有楽亭をめぐる物語は、ときに悲劇になろうとするも、子どものかわいさによって救済されてきた。
「子別れ」にあるとおり、まさしく“子はかすがい”なのである。
八代目八雲の「寿限無」、七代目八雲の「子別れ」ともに「斯くばかり偽り多き世の中に子の可愛さは真(まこと)なりけり」とまったく同じマクラを振ってから噺に入っているあたり、意図して“子ども”がフィーチャーされていることがわかる。
であるがゆえに、未来志向の大団円たる雰囲気が醸し出されているのだ。
- 注1 「子別れ」 落語のひとつ。腕のいい職人ながら酒にだらしがない大工の熊五郎は、酔って花魁の話をしてしまい、女房に愛想を尽かされてしまう。女房・子どもが家を出て行った後、熊五郎は年季の明けた花魁を長屋に引き入れたものの、家事がいっさいできず、その花魁にも男と出て行かれてしまった。それから3年、心を入れ替え断酒をし、一生懸命になって働いた熊五郎は、偶然にも女房といっしょに家を出ていった子どもに再会する。それから女房とも再び会い、子どものおかげでめでたく夫婦が元の鞘に納まるという噺。