『ニーチェ先生 ~コンビニに、さとり世代の新人が舞い降りた~』第2巻
松駒(作) ハシモト(画) KADOKAWA/メディアファクトリー ¥514+税
(2014年7月26日発売)
深夜のコンビニエンスストアに就職浪人1年目のアルバイト・松駒君が着くと、なんだか店内が騒がしい。
レジカウンターを叩きながら、「ああん!? ふざけんなよ! お客様は神様だろうが!」と声をあらげるお客さん。苦情を受けているのは今日から入った新しいバイトなのだが、彼は頭を下げるどころか、微動打にせず、ひとこと「神は死んだ」。
そんなシーンから始まる本作。タイトルにあるニーチェ先生というのは、この大型新人・仁井智慧(にいともはる)の、松駒君のなかでのあだ名。由来はもちろん「神は死んだ」の名言を残したドイツ人哲学者フリードリヒ・ニーチェから。
この作品、なにがすごいって、マンガ的な脚色はあれども、これが実話だということ! 原作者が深夜勤のコンビニバイトで大型新人に出会い、思わずTwitterに投稿したツイートが、本作のもとになっているのだ。
ニーチェ先生から「どうして年末年始もコンビニは営業し続けているんですか?」と訊かれた松駒君。「三が日は営業しない店も多いので いざって時に物が買えない人たちのために コンビニは営業しているんですよ」と答えると、ニーチェ先生は「なるほど」と口にして、「自己責任という概念をお買い上げいただきたいものですね」とのたまう。
また、「ニーチェ先生はお客様をどのように観察しているんだろう?」と興味を持った松駒君が、「アダ名をつけているお客さんっていますか?」と聞いてみると、ニーチェ先生はいぶかしげな顔で「松駒さんは ラインから延々と流れて来る量産品の一つ一つに愛称をつけてるんですか?」と語る。
独自の美学と哲学を持ったキャラクターのおもしろさ、その言動や行動が結果として周囲をまとめたり和ませたりする楽しさは、佐野菜見『坂本ですが?』にも通じるところ。
最新2巻では、無邪気で明るくさわやかなのに、なぜか裏社会の影を感じさせる新人・柴田君や、クレーム対応が神がかった本部のスーパーバイザー「キルケゴール先輩」こと桐生先輩といった、ひとクセもふたクセもある新キャラクターも登場。ますます世界観は広がっている。
しかし考えてみれば、こうしたクセ者たちと仕事ができて、そのうえで楽しめもしてしまう松駒君=原作者こそが、一番のツワ者という気も?
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Summer」が発売中。DVD&Blu-ray『一週間フレンズ。』ブックレットも手掛けています。