『読者専用検索エンジン ちょっと盛りました。』第4巻
にしもとひでお 講談社 \429+税
(2014年7月17日発売)
好きな映画のDVDを買っても、本編は見ないで特典映像やメイキングばかり見ているという人、意外と多いのでは?
創作現場というのは、作品ファンはもちろん、そうでなくても興味深くておもしろいもの。
『もう、しませんから。』を前身とした、にしもとひでおの『ちょっと盛りました。』は、作者がさまざまな現場に出掛けて、体当たりでいろんなことに挑戦するルポマンガ。
そのなかでも出色なのが、漫画家に迫った回。連載誌「少年マガジン」系列の作品群の裏側をのぞき見する内容になっている。
最新4巻だけでも、『山田くんと7人の魔女』の吉河美希、『君を回したい。』の梅山たらこ、『ベイビーステップ』の勝木光、『アルスラーン戦記』の荒川弘、『DAYS』の安田剛士、『風夏』の瀬尾公治、『ドメスティックな彼女』の流石景、『頭文字D』のしげの秀一など、人気の諸先生方が登場。マンガ愛読者にとって、じつに興味深い話が描かれている。
ただ、そこはルポ作品でもギャグマンガ。梅山たらこ先生に「ずいぶん まともな人なんですね」「いや だってさ トイレットペーパーの芯がヒロインの漫画描いている人だよ!?」と言ってのけたり、流石景先生の自宅を訪問して「あと3時間粘ったら夕ご飯も出してくれるかもよ」とのたまわったり。
マンガのなかとはいえ、思いっきり無礼をかましもすれば、自分以上に無礼な編集者にツッコみもする。ルポマンガなのに、全身全霊のアクロバティックなギャグがあるあたり、さすがは『金のへなちょこ』の作者!
もちろん、同業者ならではの視点を、ギャグ漫画家ならではの切り口で描き、各漫画家の素顔と創作の秘密をしっかりおさえているのも読みどころ。
こんなことをいったらギャグ漫画家殺しではあるけれど、笑いと情報とオチのバランスが、計算され尽くしている作品なのだ。
前身の『もうしま』から、作品のいいエッセンスになっていたのが、「マガジンのゴッドファーザー」で、作者を「ポチ」と呼ぶ『はじめの一歩』の森川ジョージ先生。
本作では、かなりダークでバイオレンスな、まるで鬼のようなキャラクターとして描かれていて笑わせてくれる。
本巻に収録されている「ちょっと森ました。」では、『はじめの一歩』タッチの画風と構成のなか登場した森川先生による、捨て身の暴露話風ギャグも!?
足掛け約10年のルポマンガシリーズも、これにて完結。
『聲の形』の大今良時先生が「漫画界の『笑っていいとも!』に私出てる――!」「にしもとさんは漫画界のタモリさんですよね」と語るシーンがあるのだけれど、いい意味で内輪ノリにあふれ、ライブ感のあるおもしろさもある本作は、たしかに「いいとも」的だった。
まだ未見という方は、ぜひ『もうしま』から楽しんでください!
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Summer」が発売中。DVD&Blu-ray『一週間フレンズ。』ブックレットも手掛けています。