日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ポメロメコ』
『ポメロメコ』
劇団イヌカレー ワニマガジン社 ¥1,852+税
(2016年10月26日発売)
かつてパスカルは「もしクレオパトラの鼻がもう少し低ければ世界の歴史は変わっていただろう」と記した。
そんなノリで、もしもシャフト制作アニメで「劇団イヌカレー」がOPやEDビジュアル設計を手がけた作品がなかったら、2000年代後半以降の二次元ジャンルの様相は、やはり何かしら違っていたかもしれない。
そう思わせるほどに強烈なイマジネーションを備えるアニメーション作家ユニットが、初めてマンガ単行本をリリースして注目を集めたのが2016年10月。
『ポメロメコ』と題された本作は、三つ編みにした髪の先どうしがつながっている工場働きの少女・ポメロとロメコを主人公とするダークメルヒェンだ。
2人が台所の床下に広がる不思議な世界へとびこみ、白いモチ状の生物の群れに侵略されつつある“床下の王国”を救うため冒険するさまをフルカラーのショートマンガ15編の連作で描きあげている。
……と、プロットの次元で説明しても肝心なところは伝わらないのが、劇団イヌカレー作品ならでは。
アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』(2011)で一世を風靡した、まるで薄暗くよどんだ空気が肌にまとわりつく悪夢のなかでおもちゃ箱をひっくり返したような毒々しいファンシー空間をじっくり目にしみこませ、悪酔いを楽しもう。
そもそもフィクション作品というのは、どれだけストーリーを筋道立てても、究極的には送り手と受け手がメディアを介してどのようにイメージを相互作用させるかという問題に行きつく。
だから、ある作品で「夢(のようなもの)を見ることができる」度合いはいかほどか、というのは重要な評価軸のひとつとなってくる。
そういう意味で、『不思議の国のアリス』の劇団イヌカレー版ともいうべき本作は、その性質を最大限にかなえているといえよう。
また、上で「おもちゃ箱」とたとえたが、実際、この本にはポメロとロメコのキャラクター型しおり紐だとか、おまけのイラストカード入り封筒、劇中世界の新聞記事、すごろくコーナーなどアイテム類がわらわらつめこまれており、1冊の本でひとつのおもちゃ箱を形成するていをなしている。
このご時勢に、物理書籍を手にすることでこそ成り立つ楽しみをつきつめているのも、気骨があってすばらしい。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7