『凍りの掌 シベリア抑留記』
おざわゆき 小池書院 \1,238+税
日本がポツダム宣言を受諾し、連合国軍に無条件降伏を通告したのは1945年8月14日。そして翌15日に天皇陛下による玉音放送(終戦の詔書の朗読)が行われ、全国民に日本の降伏が伝えられた。そのため、きょう8月15日は「終戦の日」とされている。
以降、日本軍は戦闘停止命令を受け、徐々に武装解除していく。しかし、実際に日本が降伏文書に調印したのは9月2日。
ソビエト連邦は8月15日以降も日本への戦闘行動を中止せず(北方四島の上陸作戦など)、投降した日本兵を捕虜とした。そしてスターリンの命令によって、日本人捕虜はシベリアに抑留され強制労働をさせられることになる。これが「シベリア抑留」である。
『凍りの掌 シベリア抑留記』は、作者の父のシベリア抑留体験をもととした物語だ。
作者は8月「このマンガがすごい!web」ランキング オンナ編第1位に選ばれた『あとかたの街』でもおなじみのおざわゆき。本作『凍りの掌』は自費出版の同人誌として出版されたのち、小池書院から単行本化された作品である。
終戦を機にソ連の捕虜となった主人公一行は、シベリアへと送られ、各地の収容所を点々としながら強制労働に従事することになる。いつ帰国できるか、まるで希望のない絶望のなかで、ある者は飢えて死に、ある者は強制労働の最中に死に、またある者は病に倒れていく。
そうした凄惨な抑留の実態も、穏やかで暖かみのある作者特有の絵柄だからこそ、抵抗なく読み進めていける。
また、資料的な裏づけは十分なされているものの、ドキュメントとしてよりは、一遍の物語として成立させている点に注目したい。
写真や資料といった“記録”は後世に正確な情報を伝えるが、物語はそこに生きた人々の“記憶”を残す。シベリアの地で私たちの父祖は何を思い、何を考えていたか。絶望の凍土で命を散らした者たちの記憶も、たしかにそこには描かれているのだ。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。