日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『パラフィリア ~人間椅子奇譚~』
『パラフィリア ~人間椅子奇譚~』第1巻
佐藤まさき 小学館 ¥630+税
(2016年12月12日発売)
他人と目を合わせることができない少女・瞳子(とうこ)が、憧れの生徒会長・神楽木マリが腰かける椅子に入りこんで……という作品。
日本ミステリーの生みの親ともいうべき、江戸川乱歩に『人間椅子』という短編がある。
本作は、その作品に想を得たものであろう。
ただし、乱歩の『人間椅子』は、一般的に想像されているように「椅子のなかに人間が入っている」という作品ではない。そのままだと性的倒錯に至る設定に、どんでん返しをつけることで、その一歩手前で踏みとどまった作品なのである。
しかし、本作は違う。
パラフィリア(Paraphilia)とは、性的倒錯を意味する英語である。
1920年代に発表された、乱歩の「人間椅子」は、その時代性もあって踏みこめなかったのだが、2010年代の本書では、敢然と倒錯の世界へと分け入っている。
瞳子は、椅子の革ごしに、マリと触れあうことで快感を覚える。
そして、椅子に仕掛けた覗き穴から、マリの生徒会室でのほんとうの姿を見る。
同性愛、フェティシズム、窃視(せっし)趣味……と、様々な妖しい世界が繰り広げられる。
第1巻のラストで、瞳子は、学校の天井裏へと上がる。
第2巻では、瞳子は「屋根裏の散歩者」となるのか?(乱歩にそういう短編があるのだ)。
次の展開が楽しみである。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。現在発売中の「ミステリマガジン」2017年1月号(早川書房)に、2016年のミステリコミックの総括を執筆。また、同誌のコミック評では、池田邦彦『グランドステーション ~上野駅鉄道公安室日常~』を紹介しています。