「あの話題になっているアニメの原作を僕達はじつは知らない。」略して「あのアニ」。
アニメ、映画、ときには舞台、ミュージカル、展覧会……などなど、マンガだけでなく、様々なエンタメ作品を取り上げていく「このマンガがすごい!WEB」の人気企画!
そう、これは「アニメを見ていると原作のマンガも読みたいような気もしてくるけれど、実際は手に取っていないアナタ」に贈る優しめのマンガガイドです。「このマンガがすごい!」ならではの視点で作品をレビュー! そしてもちろん、原作マンガやあわせて読みたいおすすめマンガ作品を紹介します!
今回紹介するのは、TVアニメ『幼女戦記』
WEB小説界隈ではだいぶ前から知られていたが、ここ最近ではメディアミックス展開も多くなり、すっかり世間に定着しつつある異世界転生もの。
そんな異世界転生系作品でも「魔法少女×TS(転生)×軍記」という異色の組みあわせで異彩を放っているのが、今クールに開始した『幼女戦記』だ。
弾丸が飛び交い硝煙がたちこめる戦場を、最恐の幼女が駆け抜ける!
もともと主人公は効率を重んじ、ひたすら出世を目指すサラリーマンだった。
しかし、辣腕を振るって部下をリストラした結果、逆恨みにあって駅のホームから突き落とされる。死の間際、彼は創造主を名乗る「存在X」と遭遇するも信仰心を欠片も見せず、それどころか正面切って神の存在を全否定したために、「存在X」の怒りに触れて異世界に転生させられることに。
戦争が勃発している世界に送りこまれてしまった主人公。そんな世界の孤児院に捨てられた女の子、ターニャ・デグレチャフとして第二の生を受ける。こんな過酷な世界ではか弱い幼女はあっさり死んでしまうと思いきや、彼女には人より優れた魔法の才能があった。
そして彼女はその能力を活かし、軍隊の世界で約束された将来を掴みとろうとするのだが、優れた魔法の才能と前世から変わらない冷徹な性格が組みあわさった結果、「ラインの悪魔」と呼ばれる、幼女の皮をかぶった化物が誕生する……!
こんな設定のせいか、1話の冒頭からいきなり兵士たちが戦場でガンガンうめき声をあげて死んでいくし、銃声や爆発音などのSEも臨場感あふれる気合の入った物になっている。
おかげで前情報を仕入れず、タイトルの「幼女」というフレーズにだけを頼りに番組を視聴した、大きなお友だちの心のなかの“何か”が猛スピードで萎んでいったぞ!
いや、しかし幼女要素はしっかりある。なんてたって主人公が幼女だ。
その主人公であるターニャ役の悠木碧の演技が本当に絶妙だ。やや舌ったらずな口調の子どもっぽい喋り方が、じつにかわいらしい。
そのくせ喋っている内容が「貴様の阿呆な頭蓋骨を切開して規律というものを叩きこんでやろう」みたいなものばかりなのだから、いろんな意味でたまらない。
「元サラリーマンで超リアリストな幼女」という、いろんな要素がごった煮になっているキャラを違和感なく演じている様子はまさに必聴で、ED曲に挟まれる演説もかわいらしさと苛烈さが入り混じっていて、たいへん素敵。
そんな幼女が魔法の力で宙を舞い、敵兵を次々と撃ち落していく空中戦の場面はじつに圧巻だ。
スピーディーな作画はもちろん、アップになった時の目を大きく見開いたターニャの獰猛な笑み、そして悠木碧による危ない高笑いが組み合わさることで、この作品ならではという独自の戦闘シーンが描かれているぞ!
ちなみに初戦闘時のターニャの年齢は9歳。他の作品だと、ちびまる子ちゃんと同学年である。
また声優がすごいのはターニャ役の悠木碧だけではない。本作は戦争を扱っている以上、登場人物は当然軍人ばかりで、演ずる声優も男性ばかり。それも、三木眞一郎、玄田哲章、大塚芳忠、堀内賢雄、飛田展男、土師孝也……といった超大御所が集まっているのだ。もうそのまま洋画の吹き替えとかもやっていいんじゃないかなあ。
そんないろんな意味で豪華で物々しい本作ではあるが、作品内容の過激さとは裏腹に、主人公のターニャの考えが意外と地に足がついているのがおもしろい。軍隊に入ったのだって普通に暮らすよりも、軍隊のほうが生存と保身が確実になるからだし、彼女の軍隊内における目標は安全な後方勤務による順風満帆な人生なのだ。
しかし、サラリーマン時代の習性かな、現場における軍人としての最適な最善な行動を取っていたら、大活躍して勲章をもらうことになるわ、お望みどおりに後方勤務にまわったら怪しげな兵器の実験台にされてしまうわと、なかなかどうしてうまくいかない。そうしたターニャの空回りっぷりは見ていて微笑ましい。
はたして、彼女はこの戦争を無事生き延び、幼女から大人の女性になることができるのか?
また、アニメの時間軸の流れは、2話→3話中盤→1話→3話後半と少し変わった流れになっているので、1話だけ見て「チガウ……ヨウジョ、コレジャナイ……」となった人も、改めてまとめて見直せば、意外な発見や楽しみを見つけ出せるのではないだろうか。
TVアニメ『幼女戦記』を観たあとに……
今回、TVアニメ『幼女戦記』をさらに楽しみたいアナタに、読んでほしい原作を紹介しちゃいますよっ。
『幼女戦記』漫画:東條チカ 原作:カルロ・ゼン キャラクター原案:篠月しのぶ
『幼女戦記』 第1巻
漫画:東條チカ 原作:カルロ・ゼン キャラクター原案:篠月しのぶ
価格:580円(本体)+税
現在コミックス版は3巻まで発売中。ストーリー自体はアニメと同じだが、アニメでは尺の都合で省略されていた登場人物の心理描写がより克明に書かれていたり、軍事用語や作中用語にわかりやすい解説がついていたりと、単品でも読んでおもしろいが、アニメの副読本としてもじつに優れた一品になっている。あと見開きで描かれるターニャの禍々しい表情は必見。アニメでも、マンガ版でも異常に目力あるんだよな、この幼女……。また読んでいてストーリーの続きが気になったという方は、原作である小説版(KADOKAWA刊)も当然おすすめです。
『幼女戦記 1 Deus lo vult』 第1巻
カルロ・ゼン(著)/ 篠月しのぶ(画)
価格:1,000円(本体)+税
<文・犬紳士>
養蜂家。好きな野鳥はメジロ。
Twitter:@gentledog