365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
2月22日は猫の日。本日読むべきマンガは……。
『伊藤潤二の猫日記 よん&むー』
伊藤潤二 講談社 ¥648+税
2月22日は「猫の日」。
これは2・2・2(にゃん・にゃん・にゃん)の語呂合わせによるもの。ペットフード協会が全国の愛猫家から公募し、「猫と一緒に暮らせる幸せに感謝し、猫とともにこの喜びをかみしめる記念日を」との趣旨で猫の日実行委員会によって1987年に制定された記念日。
日本は語呂合わせで2月22日が「猫の日」となったが、世界的には8月8日の「世界猫の日」が定められている。しかしこの「世界猫の日」、なぜこの日に定められたのかはっきりしていないし、何をする日とも決められていないらしい。まあ、そんなのも猫っぽいといえば猫っぽい。
個人的には「Φ月Φ日」という日があれば、かなりの国でこの日を「猫の日」と受け入れてもらえるのではないだろうか、などと考える。
さて、そんな「猫の日」に読む物といえば、猫を描いたマンガに決まっている!
伊藤潤二といえばマンガ好きなら知らぬ者はいないホラーマンガの大家。人を狂わさずにはいられない絶世の美少女・富江を主人公とした『富江』シリーズは、映画8作、テレビドラマがつくられる人気シリーズとなっている。
奇抜な想像力で描かれた悪夢的な世界は見る者に不快感と強烈な恐怖感をもたらすが、しかし同時にそのたぐいまれな独創性によって目をそらすことを許さない非凡な魅力に満ち満ちている。
そんな伊藤潤二が描いた非ホラーな数少ない作品のひとつが、今日紹介する『伊藤潤二の猫日記 よん&むー』だ。
そもそも猫が好きな漫画家は多い。
家にこもり、机に向かって仕事をする漫画家にとって、猫はいい伴侶となるのだろう。
ニャロメ、タマ、ドラえもん、マイケル、ゆずと、猫の人気キャラクターも枚挙にいとまがない。
伊藤潤二と猫の出会いは、婚約者のA子との新居での生活がきっかけだったようだ。
新居でA子が実家からつれてきた「よん」こと「よんすけ」と同居することになり、さらに「むー」が増えることになる。
『伊藤潤二の猫日記 よん&むー』は、2匹の猫に翻弄される伊藤家の日常を描いたエッセイコミックだ。
エッセイコミックであっても、基本的に伊藤潤二は絵柄やコマ運びをホラーマンガと変えたりしない。
「呪い顔」と説明される変な顔つきの「よん」が「ヌー」とキャリーから首を伸ばして登場するコマなどいつもの伊藤マンガそのままで、その緊張感が逆におかしみを増している。
人に撫でられゴロゴロと喉を鳴らす「むー」のかわいさにアテられた伊藤潤二が「お…おまえ…食べちゃうぞ~っ」と「むー」に迫る様子がホラータッチそのままで描かれ、その恐ろしさと「むー」の愛らしさのギャップに笑わされてしまうのだ。
ちなみにマンガに登場する伊藤の婚約者であるA子とは、猫のイラストレーションで知られるイラストレーターの石黒亜矢子のこと。
マンガのなかでのA子はやたら白目で描かれていたり、奇妙なシマシマのスカートやズボン姿で登場し、その異質さがいつもの伊藤マンガの登場人物のようで恐怖感を煽る……、煽るのだが、当の本人からは「そんなズボンは履いていない」と指摘されたらしく、読み手のこちらとしてはホッとひと安心する。もちろんいつも白目をむいているような女性ではないのだろう。
伊藤潤二の作品に、厨二的にホラーを追求しながらも、未熟さゆえにぎりぎりギャグにころがりオチてしまう「双一」というキャラクターがいるのだが、本作はそんなおかしさに満ちている。
猫を愛する人はもちろん、「猫ってどこがかわいいの?」と懐疑的な人、伊藤ホラーマンガのファンを含むすべてのマンガファンにすすめたいのが『伊藤潤二の猫日記 よん&むー』だ。
<文・秋山哲茂>
フリーの編集・ライター。怪獣とマンガとSF好き。主な著書に『ウルトラ博物館』、『ドラえもん深読みガイド』(小学館)、『藤子・F・不二雄キャラクターズ Fグッズ大行進!』(徳間書店)など。構成を担当した『てんとう虫コミックスアニメ版 映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』が発売中。4コマ雑誌を読みながら風呂につかるのが喜びのチャンピオン紳士(見習い)。