日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『手塚治虫シナリオ集成 1970-1980』
『立東舎文庫 手塚治虫シナリオ集成 1970-1980』
手塚治虫 リットーミュージック ¥900+税
(2017年2月20日発売)
マンガを筆頭にアニメ・舞台なども数多くの創作を手がけたレジェンド・手塚治虫が発表した70年代作品について、企画開始時に執筆されたシナリオやシノプシス(概要・あらすじ)をまとめた作品集。
マンガというよりはテキスト中心の文庫だが、イメージボードやキャラクター設定など画稿も含まれており、ビジュアル的な満足度も高い。
没後30年ちかくもなろうかという氏の遺稿だ、いかに巨匠といえどそれほどの“掘り出し物”はなかろうとたかをくくっていたが、本書に収録したものの大半が文庫初収録作品ということにはわが身の不明をただただ恥じるばかりだ。
なかでも1977年制作のテレビアニメ『ジェッターマルス』のシノプシスは、書籍としても初公開というもの。
日本初の国産テレビアニメ『鉄腕アトム』の爆発的人気を知る筆者らからすれば、『マルス』はあくまでも『アトム』のリメイク、言葉を選ばないならば二番せんじという印象の作品(実際、アニメでも清水マリ、勝田久といった『アトム』声優陣がメインキャストを演じていた)。
しかしながら、「マルス開発のきっかけ」や「マルスに課せられたテーマ」など、『アトム』とは明確に異なるアプローチがシノプシス段階から存在したことなど、新しい発見がある。これらの事実は、かつて刊行された手塚プロ資料室長の森晴路氏による『図説 鉄腕アトム』の記述を裏づけることにもなり、非常に興味深い。
そのほか『クレオパトラ』('70年)シノプシスや『100万年地球の旅 バンダーブック』('78年)シナリオなど未発表草稿を含み、多数収録。
巨匠の大いなる遺産にみずから触れてほしい。
<文・富士見大>
ゲームデザイナーを経て編集・ライター。最近作は『「仮面ライダー」超解析 平成ライダー新世紀』、『「ウルトラマン超解析」大怪獣激闘ヒストリー!』。ただいま発売中の「東映ヒーローMAX Vol.55」にも参加しています。