日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい！WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー！

今回紹介するのは、『猫のお寺の知恩さん』

『猫のお寺の知恩さん』 第3巻
オジロマコト 小学館 ￥552+税
（2017年2月28日発売）

TV Bros.（東京ニュース通信社）のマンガ賞「2016ブロスコミックアワード」で大賞を受賞した本作。
内容は、すこぶる地味だ。

遠い親戚である知恩さんのもとに、高校進学をきっかけに住みこむことになった源。
知恩さんは働き者で、ときどき無防備。
年上の彼女に時おりドキッとさせられながら、のんびりした生活を過ごす。

おしゃれっ気は皆無、無防備で、マイペースで、だいぶダサい。
そんな女性の色気を描かせたら、この著者はピカイチだ。
知恩さんは動くこと優先で、常にTシャツにジーパン。
髪も特に手入れせず、後ろで結んでいるだけ。
掃除洗濯庭いじり。薄汚れている時のほうが多い。
子猫を助けるために、側溝をこじ開けて泥だらけになってもぐりこむ。

姉的存在であろうとする知恩さんの飾らない姿には、ものすごい「包容する女性」感があふれている。猫にミルクをあげているシーンの美しさは、赤子を抱く母親のようだ。
同時に、特に後ろ姿がどうしようもなく色っぽい。男子高校生ならずとも、目がくぎづけになる。

第3巻でも、前半はたいした事件が起きない。
18話では知恩さんが「ゴールデンウィークがこんなに楽しいの、はじめて。」といっている。
しかしやっているのは、源といっしょに袋インスタント麺をつくって、のんびり縁側で食べているだけだ。
それが、幸せを分かちあっている瞬間なのだ。
こんな女性、惚れるなってほうが無理だ。

源は町で出会った友だちに「今んとこが家になったらいいなって思ってるけど。2年後とか未来すぎじゃない？」という。知恩さんのいるお寺に住み続けたいようだ。
ところがラストシーン、知恩さんがポロッとあることをいう。
今までののんびりゆったり知恩さんと全然違うので、ゾクッとさせられる。
それが、知恩さんの「女性」をさらにリアルにしているから、すごい。

＜文・たまごまご＞
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」