日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『怪談少年 乱ノ巻』
『怪談少年 乱ノ巻』
高橋葉介 ぶんか社 ¥1,300+税
(2017年3月10日発売)
『怪談少年 乱ノ巻』は、高橋葉介『怪談少年』、『怪談少年 妖ノ巻』に続く最新作。『夢幻紳士』や『学校怪談』で知られる著者の現在の筆の冴えを味わえる傑作だ。
第1巻にあたる『怪談少年』では、人類を滅ぼそうとする大妖の娘と息子である姉弟の2人を主人公にして「耳なし芳一」や「茶碗の中」、「夢十夜」といった幻想文学の名作のパロディを1話完結形式で描くもの。高橋葉介らしいレトロで淫靡な静謐感とスラップスティックな騒乱をないまぜにした世界観が見事。キチンとオチがついた最終話「変身」も見事。
ついた第2巻にあたる『妖ノ巻』は、登場キャラクターも増え賑やかになりつつSFの古典やアニメのパロディへと路線を変更し、持ち前のエロチックさが強調されていた。定番パターンである「夢オチ」を効果的に使ったエピソード「幻魔対戦」がオススメ。
そして念願の第3巻である今巻。すばらしい。
収録第1作目である「だって人形だもの」は照れ隠しなのかチャカし気味のタイトルだが、金持ちの娘にかわいがられたのに捨てられたという過去を持つ日本人形の「姫」のせつない物語。
姫が捨てられた経緯は前巻で語られており、今は主人公たちの家に居候している。その姫が何者かにさらわれ、病弱な少女に出会うことになる。
『トイ・ストーリー』が好きな人には短編ながら涙なしには読めない逸品だ。
夏の海を描く「鯨神に花束を」もいい。高橋葉介ワールドの海辺はどうしてこうもせつなく、さみしく、侘しい美しさがあるのだろう(人がいないのは、主人公たち一行がバケモノ騒ぎを起こして海水浴に来た客を追っ払ってしまったからなのだが…)。
あとがきによるとまだ続きがありそうなのでファンとしてはとてもうれしい。先生、俺、ついていきます!
<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
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