日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『花落としのいつか』
『花落としのいつか』
浅見ヒッポ アルファポリス ¥680+税
(2017年3月31日発売)
断言しちゃうけど、傑作。
「人の身体に花が咲く」という設定は、マンガにかぎらず神話や伝説、民話の時代から数多ある。「咲う」と書いて「わらう」と読むくらいだし、少女マンガでは美しいキャラクターが登場するシーンで背景に花を描きこむ。
この『花落としのいつか』は、花が身体に咲いてしまうという奇病あるいは特異体質がまれにあらわれる世界の物語。花の咲く人は「花人(はなびと)」と呼ばれ、差別を受けたり、治療しようとしたり、ときにはわざと再発させようとしたりする。
本作がすばらしいのは、「花」を花人の感情と絶妙に結びつけているところ。少女たちの友情、結婚を控えた恋人たちの関係、夫婦と家族。恋愛や友情と書いてしまえばそれまでなのだけれど、そこには安心や依存、独立したいという気持ち、さみしさ、様々で複雑に入り混じる思いが絡まりあっている。
人が花を愛でるのはなぜだろう。美しい花は、あるいは花の美しさは、それだけでは腹の足しにもならない。本来、花が咲くのは植物として当然の現象にすぎない。……それは本当だろうか。
気候などの影響を受けるとはいえ、手をかけた分だけ応えてくれるから花は人よりも好きだ、というセリフは園芸を愛するキャラクターがよく口にするものだけれど、相手に心を砕き、その反応によろこぶ、というのは友情や恋愛にかぎらず、人と人の間にもいえること。
本作の登場人物たちは、不器用で臆病で、ときには互いを傷つけあってしまう。それでも、花人の咲かせる花は、普通の花よりもきれいなものとして描かれている。それはおそらく、言葉にできない気持ちが花にあらわれているからなのではないだろうか。
個人的には、花人たちが「治療」のために通う地元の治療院の先生(花守と呼ばれる)の、ひねくれた性格がとても好ましい。
面倒な奴だと日頃よくいわれる人、本当は素直な気持ちになりたいすべての読者にオススメの作品です。
<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
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