365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
6月5日は神戸大空襲の日。本日読むべきマンガは……。
『角川ホラー文庫 歯車 ~石ノ森章太郎プレミアムコレクション~』
石ノ森章太郎 KADOKAWA ¥781+税
今日は神戸大空襲が起きた日である。
1945年、制空権を奪われた日本は米軍機による空襲を受けるようになった。東京大空襲や、広島と長崎への原爆投下が有名だが、大阪や名古屋など大都市は軒並み被害に遭っている。
神戸も戦略爆撃の標的とされた都市のひとつであり、1945年2月4日以降は連日のように空襲を受けた。
特に大規模な被害を出したのが3月17日、5月11日、そして6月5日である。
石ノ森章太郎『くだんのはは』は、神戸大空襲直後の焼けあとから物語が始まる。
本作は小松左京の恐怖小説を石ノ森章太郎がコミカライズした短編だ。
神戸大空襲で焼け出された主人公は、知人のツテを頼りに、父とともに旧家のお屋敷に身を寄せることになる。屋敷でははなれをあてがわれ、主人公はそこで寝起きをすることになるが、夜中になるとだれかのすすり泣く声がきこえてくる。そのことを家政婦に問いただすと、母屋には病人がいるので、あまり近づいてはならないと釘を刺されてしまう。
やがて激しくなる空襲。
主人公は家人に屋敷から逃げることを提案するが、女主人は平然として「ここは焼けません」と断言するのであった。また女主人は、神戸よりも「もっと西のほう」では「この空襲よりももっとひどいことになる」と予言めいたことまでいう。
この屋敷には、いったいどのような謎が隠されているのだろうか?
物語冒頭、主人公は中学3年生と説明されるが、1945年当時、旧制中学の修了年限は5年から4年へと短縮されている。
また、徴兵年齢も17歳まで引き下げられており、2カ月後には日本が降伏する未来を知りえない少年からすれば、いつ自分も徴兵されるかわかったものではない。その焦燥と空襲の恐怖、そして屋敷の女主人への不信感が募り、少年の不安感は日ごとに増していく。
様々な感情が一度に去来し、自分でもその感情をどう制御していいかわからないような、少年のいらだった胸の内が見事に描かれている。主人公の心情に寄り添って物語を読み進めていくことをオススメしたい。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama