話題の“あの”マンガの魅力を、作中カットとともにたっぷり紹介するロングレビュー。ときには漫画家ご本人からのコメントも!
今回紹介するのは『このマンガがすごい! comics 佐武と市捕物控 隅田川物語』
『このマンガがすごい! comics 佐武と市捕物控 隅田川物語』
石ノ森章太郎 宝島社 ¥590+税
(2017年4月22日発売)
『佐武と市捕物控』は、天才・石ノ森章太郎による傑作時代劇である。
主人公の佐武は下っ引き(岡っ引きの手下)で、捕縄術や十手術を得意とする。佐武の相棒の市は、盲目の按摩師(あんまし)で、居合い剣の達人。この佐武と市のコンビが、文化文政時代のお江戸・八百八町を舞台に数々の難事件に挑む。悪人とのアクションもさることながら、謎解きミステリーとしての要素も強く、いうなれば「時代劇ミステリー」なのである。
もともとは「週刊少年サンデー」誌上にて不定期連載をしていたが、1968年に小学館が新創刊した「月刊ビッグコミック」(現在の「ビッグコミック)に掲載の場を移し、青年向けマンガとして読者から人気を博した。創刊編集長・小西湧之助からの原稿依頼に対して、石森(当時)は「佐武市を描かせてほしい」との条件を提示した(『ビッグコミック創刊物語』滝田誠一郎)というから、石ノ森にとっては思い入れのある作品であることは疑いようがない。
『佐武と市捕物控』は1972年にいったん連載を終了するが、その後も様々な雑誌で読み切りを発表。まさに天才・石ノ森のライフワークともいえる傑作である。
その『佐武と市捕物控』が、このほど復刊されることになった。それが『佐武と市捕物控 隅田川物語』と『佐武と市捕物控 野ざらし』だ。
『隅田川物語』の表題作は、「月刊ビッグコミック」創刊号に掲載された最初の話であり、青年向けにリアレンジされた直後のエピソードである。熱量がたっぷりと注がれた怒濤の61ページに、あっという間に江戸の舞台に引きこまれることだろう。2015年にBS日テレ開局15周年に制作された実写の時代劇『佐武と市捕物控』(出演:小池徹平・遠藤憲一)は、この「隅田川物語」を原作としていた。
本書には表題作以外にも「狂い水」「ねこやなぎじんちょうげ」「散桜記(ちりぬるを)」「晩(おそ)い夏」「熱い風」「蝉しぐれ」「入梅穴(ついりあな)」の7編が収録されており、剣劇アクションとして、また推理ミステリーとして、あるいは佐武と市のバディものとしての魅力が詰まっている。