日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『お約束コンサルタント 鈴木王道』
『お約束コンサルタント 鈴木王道』 第2巻
高津ケイタ 少年画報社 ¥580+税
(2017年4月17日発売)
成人向けでは「高津」としておねショタや褐色肌などのジャンルで人気を集め、一般では「高津ケイタ」名義で活躍する著者の近作『お約束コンサルタント 鈴木王道』が、4月発売の第2巻で完結を迎えた。
遅刻寸前の少女があわてて走っていたら見知らぬ男子にぶつかり、ラブコメの幕があがる。
不良少年が熱血教師に涙ながらの拳をくらい、本気で叱られた感動から更生する。
飛行機内で急病人が出て、乗務員が「お客様のなかにお医者様はいらっしゃいませんか?」と呼びかける。
あまりにもベタ。
けれどなかなか現実に体験する機会のない“それ”を人は何と呼ぶか?
そう、“お約束”あるいは“王道展開”だ。
主人公・鈴木王道(すずき・おうみち)は、「あの人にこんなお約束を体験させてあげてほしい」という依頼を請けて、ターゲットの周辺に様々な工作を巡らせる仕掛け人である。
少女の登校ルートに障害物や通行人を配置して男の子とぶつかるようタイミングを誘導する計画性や、ひ弱な教師のために特製の発熱シートと人工皮膚を用意して“熱い鉄拳”を物理的に実現する発想力など、その仕事ぶりはまさにプロフェッショナル。
仕込みとは知らず“お約束”に見舞われたターゲットたちは、それぞれの人生に明るい転機をえて、依頼人も大満足。報酬が支払われ、一件落着……。
ここまでが、第1巻のおもな内容だ。
そして第2巻では、結末に向けてテーマ的な部分が一気に深みをみせていく。
そもそも“お約束”や“王道展開”ってなんだろう?
鈴木の仕事は、現実にはお約束がそうそう起こらないからこそ成り立つものだ。
99%の確率で失敗するものはそのとおり失敗するし、病気の子どもと約束してもホームランが打てるかどうかわからないし、子どもがどうがんばっても離婚寸前の両親が思いとどまる保証はない。
本来“それ”はめったにないことで、めったにないからこそ“有り難い”ドラマティックな状況たりえるのだ。
何より、お約束には負の側面もある。
「故郷に帰ったら結婚する」兵士の死亡フラグのように、定番シチュはときに理不尽な災いそのものとなる。
劇中、この問題をつきつけるのが、鈴木と対になるキャラクターで、お約束のフラグ潰しを使命とする男・田中邪道(たなか・よこみち)である。
田中は、上に述べた理由から、鈴木の追求する“お約束”を不自然だ、と喝破する。
それでも鈴木はめげずに自分のつとめを果たし続けるのだが、仕事の範囲はだんだん現実の垣根をこえて、不穏な気配を漂わせてくる。
巨大ロボットの戦闘や変身ヒーローの誕生に介入し、悪魔召喚の儀式の結果をねじまげ、いたずら好きな神を地上に堕とすなど、もはや人間の能力でどうこうできるはずがないものまでお約束のなかに呑みこんでいくのだ。
そこにいるのはもはや、現実のなかでフィクションのお約束を見かけ上だけ再現する職人ではない。うまくいくかどうかわからないことで多様性を持つ現実を破壊して、世界のすべてを幅の狭い幸せに塗り替えるメタフィクションの怪物だ。
主人公の動機はしっかり一貫させたまま、ラスボスへと転化させる第2巻の構成は非常にお見事。
田中邪道や鈴木の部下・長田さんたちが、鈴木にどう立ち向かい、どう救おうとするのか。
現実と虚構の壁、そして時空の因果まで越えた本作の結末を見届けてほしい。
いやー、まさかこんな壮大な内容になるとは……!
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム35年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論 増補改訂版』(総合科学出版)。プリキュアはSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7