日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『このマンガがすごい! comics 形式結婚 出会って1時間結婚編』
『このマンガがすごい! comics 形式結婚 出会って1時間結婚編』
柳沢きみお 宝島社 ¥590+税
(2017年6月7日発売)
Jリーグ発足前夜の1992年に柳沢きみおが「漫画アクション」にて連載をスタートさせた伝説のセックスコメディ『形式結婚』が、「このマンガがすごい! comics」から復活する。
姉さん、これは事件です!
主人公は社会人の2部リーグに所属するジャパンビールのサッカー選手・要石畳(かなめいし・たたみ)・27歳。
昼は営業マンとして外回りをし、夜はハードな練習をこなす日々だ。
スポーツマンでモテるタイプに見える要石だが、彼には大きな秘密があった。
高校時代に初めてつきあった彼女と相対した際の“事件”がトラウマとなり、すっかり女性恐怖症となってしまったのだ。
そんな要石が男性恐怖症の美女・香織と知り合い、あれこれと詮索してくるまわりの目から隠れるように、形式結婚の道を選ぶ。
こうしてセックスはおろか、洗濯物やお互いの入った風呂のお湯すらも避けるデリケートな新婚生活が始まる。
こうして序盤のプロットをなぞると、この先、仮面夫婦がそれぞれの異性恐怖症を克服し、真実の愛に目覚めていくようなラブストーリーを想像するが、そうは問屋が、否、柳沢先生がおろさない。
生身の女性とできないだけで、人並みに性的欲求を持っている要石は、「どこでもいいから入れてみたい!!」という想いを爆発させ、彼に想いを寄せるゲイの後輩・新井に向かって暴走していく。
また要石夫妻の住むマンションの隣人たちも、それぞれ大きな性の悩みを抱えていた。
右隣に住む弁護士の美女・石内は不感症で、左隣に住むカメラマンのイケメンはインポなのだ。
そんな隣人たちは、内情を知らずに新婚カップルをうらやみ、自暴自棄になるのであった。
せつない、じつにせつない。
当レビューを読んでいる諸氏も、多かれ少なかれ性の悩みを抱えているはずだ。
セックスができなくても死ぬわけではないが、当人にしてみれば大問題。
人知れず涙で枕を濡らすことだってあるだろう。
なんでセックスなんかで悩まなくてはいけないのか?
そもそも男と女は、男と男は、女と女は、なぜ愛し合うのか?
物語はそんな根源的な領域にも踏みこんでいく。うーむ、深い。
エロコメの皮をかぶった性の哲学書をぜひともご一読いただきたい。
<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。