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6月13日は「小さな親切」運動本部が設立された日 『いいひと。』を読もう!【きょうのマンガ】

2017/06/13


365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。

6月13日は「小さな親切」運動本部が設立された日。本日読むべきマンガは……。


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『小学館文庫 いいひと。』 第1巻
高橋しん 小学館 ¥581+税


多くの壮大な物語のなかでよく告発されるように、人類はいつも奪いあい、傷つけあい、殺しあってきた愚かな生き物だ。
……が、「それだけ」なら我々は種族としてもっと早々に自滅していたことになる。
別の側面をみれば、自分以外の存在にも得をさせる行動の種類と規模において、人類があらゆる生物のなかで抜きんでていることも指摘されてしかるべきだろう。

汝の隣人を愛せよ。
敵に塩をおくる。
義を見てせざるは勇無きなり。
A kindness is never lost.(親切は無駄にならない・情けは人のためならず)

あなたが個人としてそれらの言葉に納得するか否かはひとまず置いておこう。
ともかく人間にはそういう概念をひねりだして利他行動をとるオプションがあり、それが種の存続に寄与しているのは事実である。

利他行動というと堅苦しいが、つまりそれは「親切」のことだ。

日常生活のなかで、ふと目にとまった身近なひとや物事の難儀を、無理のない範囲で手助けする。そんな「小さな親切」を意識的に促進しよう、という活動を、もう半世紀以上も続けている社団法人がある。
名前はそのまんまずばり、“「小さな親切」運動”。

この「小さな親切」運動の本部が設立されたのが、1963年の今日、6月13日だ。

公式サイトによると、発端は、同じ1963年の初春に、当時の東京大学総長・茅誠司氏が卒業生へ含蓄深い告示をおくったことだったという。
「“小さな親切”を、勇気をもってやっていただきたい。そしてそれが、やがては日本の社会の隅々までを埋めつくすであろう親切というなだれの芽としていただきたい」
これに感銘をうけた人々が、茅氏を初代代表にすえて運動を立ちあげたというしだいだ。
「地元の神社でゴミ拾いした」「学校の授業で栽培した野菜を漬物にして売ったお金を盲導犬の育成事業に寄付した」「居酒屋に居合わせた客が倒れたので心肺蘇生措置をおこなった」など、様々なレベルの“いいこと”が全国で行われている様子を、運動本部を介して知ることができる。

さて、題材に「親切」が関わるマンガといえば?
という時に、おそらく鉄板としてあがる筆頭が『いいひと。』だろう。
高橋しんの長編デビュー作であり、『最終兵器彼女』がブレイクする前に、高橋の作風を強く読者に焼きつけたヒューマンドラマ作品である。元SMAP草彅剛の主演TVドラマも話題になりましたね。

主人公・北野優二こと「ゆーじ」は北海道から出て大手スポーツ用品メーカーに就職した青年。
彼は困っている人を見ると放っておけない親切心を常識離れしたレベルで発揮する超・おひとよしで、素朴で温かい言動が現代社会にありがちなギスギスした気持ちにとらわれていたまわりの人々を感化していく、というのが大筋となる。

ただし、優二は主人公ではあるが、エピソードの軸は彼の思いやりに触れて影響を受ける、他の登場人物たちの側に置かれることが多く、そこに本作の特徴がある。
読み進めていくうちに、タイトルの「いいひと。」は優二のことを指す以上に、自分も「いいひと」としての心構えが持てることに気づく、すべての人(もちろん読者も!)を含んだ広いニュアンスで浮かびあがってくるのだ。
スーパーヒーローに憧れても同じ超能力は持てないが同じ勇気を持つことはできる、みたいなヒーローもののテーマ構造に近い作品ともいえる。

「小さな親切」運動にゆかりのある本日、何かちょっと“いいこと”をしてみようかと腰をあげる景気づけに、まず『いいひと。』を読んでみてはいかがだろう。



<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』 (総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7

単行本情報

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