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『このマンガがすごい!comics 佐武と市捕物控 刻の祭り』 石ノ森章太郎 (著) 【日刊マンガガイド】

2017/06/14


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『このマンガがすごい! comics 佐武と市捕物控 刻の祭り』

  
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『このマンガがすごい! comics 佐武と市捕物控 刻の祭り』
石ノ森章太郎 宝島社 ¥590+税
(2017年6月13日発売)


本作『佐武と市捕物控』は、下っ引き(岡っ引きの手下)の佐武と盲目の按摩師・市のコンビが、江戸で起こる難事件を解決するアクション時代劇ミステリ。
「このマンガがすごい!comics」での第4弾がこのほどリリースされた。
今作『このマンガがすごい!comics 佐武と市捕物控 刻の祭り』には「刻の祭り」「年の関」「めでたさも中位なり江戸の春」「血と雪」「夏の音」の5編が収録されている。

表題作「刻の祭り」では、実姉の容体が思わしくないことを報された佐武が、故郷に里帰りすることになる。
甲州巨摩郡私市村(こまごおり・きさいむら)の貧農の子に生まれた佐武が、なぜ江戸に出てきたのか。
佐武が得意とする捕縄術はどのように習得したものなのか。
そして佐武と市はどのように出会い、コンビを組むようになったのか。
そうした「佐武と市」のビギンズ・ストーリーが明らかにされていく。

市の来歴についての物語は、「散桜記」(『このマンガがすごい!comics 佐武と市捕物控 隅田川物語』に収録)にくわしいが、今巻では佐武のパーソナル・ヒストリーが語られることで、各話の事件とは別に、彼が江戸にいる理由という「大きな物語」がおぼろげながら姿を現してくるのだ。
また、舞台を江戸から甲州(現在の山梨県)に移したことで、自然の描写が多く、しかしそれは風光明媚な美しさとしてではなく、過酷で恐ろしいものとして表現される。

「年の関」「めでたさも中位なり江戸の春」「血と雪」「夏の音」の4編は、四季折々の年中行事や風俗習慣をまじえ、江戸の街並みと生活を鮮やかに描き出す。
「年の関」では、大晦日の「かけ取り」について語られる。
江戸時代の商取引は掛売り、つまりツケ払いが主流であり、それを大晦日の日にいっせいに取り立てに行くのが習慣となっていた。
井原西鶴が『世間胸算用』(副題は「大晦日は一日千金」)で大晦日の悲喜こもごもを書きまとめているが、そうした“掛け取り”(借金取り)に追われる庶民の暮らし向きを理解すると、より作中の女房の悲哀も伝わってくるだろう。
一方で掛け取りを回避するために夜を徹して外を歩く開き直った市の姿に、したたかさとコミカルさを感じるはずだ。
「めでたさも中位なり江戸の春」は、小林一茶の句「めでたさも中くらいなりおらが春」に掛けたタイトル。
新参舞、鷽替(うそがえ)といった一月の行事が題材となっている。
「血と雪」は雪の降り積もった江戸八百八町の姿が美しい。1色(モノクロ)印刷を基本とするマンガの世界で、「白」を表現することのなんと難しいことか!
雪景色を見事に表現するとともに、その雪に鮮やかな鮮血が飛び散る。

墨で描かれる“白の世界“はまさに、圧巻の美!

墨で描かれる“白の世界“はまさに、圧巻の美!

そして季節は再び巡り、「夏の音」では梅雨明けの江戸が舞台となる。
盲目の市には、江戸という町は、どのように“聞こえている”のかを表現する意欲作。
様々な擬音が作中を彩る。視覚のかわりに聴覚と嗅覚を研ぎ澄まし、捜査に役立てていく過程がみどころだ。

第3弾となる『このマンガがすごい!comics 佐武と市捕物控 刻の祭り』には、読者の五感に訴えるエピソードが多く収録されており、生きた町並みと、そこに住まう人々の息づかいを伝えてくれる。
江戸の風を、その身に感じてほしい。



<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama

単行本情報

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