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今回紹介するのは、『このマンガがすごい! comics 七人の侍』
『このマンガがすごい! comics 七人の侍』
黒澤明(著) 小国英雄(著) 橋本忍(脚本) ケン月影(画) 宝島社 ¥630+税
(2017年6月17日発売)
本作は1954年に劇場公開された黒澤明の映画『七人の侍』のコミカライズである。
1954年にヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞した映画『七人の侍』は、世界の映画史に残る傑作と高く評価された。
この『七人の侍』を西部劇に翻案したのが『荒野の七人』(1960年)であり、2016年に『マグニフィセント・セブン』としてリメイクされている(どちらも原作として『七人の侍』がクレジットされている)。
劇場公開からすでに半世紀以上が経過しているが、今なおリメイクされたり、世界中に愛され続けていたりする名作だが、1970年に「週刊少年マガジン」にてコミカライズした作品が、このほど復刊されることになった。
『七人の侍』は日本の戦国時代が舞台である。
作中、天正2(1574)年に生まれた人物を「13歳」としているので、当時の慣例からその年齢を数え年と考えるなら、天正14(1586)年頃が作品の時代設定ということになる。
豊臣政権が成立して戦国の動乱が終息に向かいつつあるが、およそ100年続いた乱世に人々が疲弊し、まだ各地で血生臭い戦闘行為が続いている時代、と考えていい。
そのような状況下で、野武士(野ぶせり)に狙われた村が、浪人を雇い、七人の侍が野武士から村を護るための戦いを繰り広げる。
「仲間集め」「合戦準備」「戦闘」の3幕構成が、『七人の侍』の物語の基本構造だ。
このようにだれにでも理解できるような明快なストーリーでありながら、しかし単なる勧善懲悪に落としこんでいないところに本作の特徴がある。
百姓は虐げられるだけの弱者ではなく、したたかで、小ずるい存在として描かれる。
百姓には百姓の理屈があり、それが侍の生きかたと対比されているのだ。
黒澤明、橋本忍、小国英雄の脚本は、決して説明過多ではない。
必要最小限の情報だけで、その人物のバックグラウンドを浮き彫りにするほど、綿密に練られた脚本である。
このコミカライズ版でも、原作のセリフは変えずに忠実に再現しているが、それでも物語がきっちりと成立しているのは、ケン月影の筆力のおかげといえる。
ケン月影の描く登場人物の表情はじつに豊かであり、志村喬(主人公・勘兵衛役)や三船敏郎(菊千代役)といった名優に負けない説得力を持つ。
であればこそ、黒澤映画の完全コミカライズといった離れ業が実現できたのだ。
さて『七人の侍』は、麦の色が緑から黄色に変わり、収穫が近づくほど、野ぶせりの襲撃が近づいてくるという、タイム・サスペンス的な要素もはらんでいる。
侍と百姓の違い、七人の侍の個々の魅力、チャンバラ活劇、そしてタイム・サスペンスと、様々な魅力にあふれた本作。
映画とは違い、誌面の隅々まで自分のペースで確認しながら読みこみ、この世界的な名作を堪能してみてはどうだろう。
これはまさしく“読むクロサワ映画”である。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama