日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『健康で文化的な最低限度の生活』
『健康で文化的な最低限度の生活』 第5巻
柏木ハルコ 小学館 ¥552+税
(2017年5月30日発売)
新人ケースワーカー・義経えみるの奮闘を通して“生活保護のリアル”を描く話題作『健康で文化的な最低限度の生活』の最新刊。
本気で仕事を探さず、のらりくらりと生活保護ライフを続ける人、「私は生活保護なんか受けるような人間じゃないんです!!」と自立を急ぐがゆえに追いつめられてゆく人……。
多種多様な受給者達に翻弄され、「1人ひとり全力でやってたら身がもたないかも……」と戸惑う主人公・義経。
困っている人にどこまで手を差し伸べられるか?――といった問題は、人間が生きていくうえでの根源的かつ普遍的テーマでもある。
世の中の大半の人々は自分のことだけでいっぱいいっぱいで、いくらニュースで貧困問題が叫ばれようが、こっちだってたいへんなんだよ……と無力感とともに思考をシャットアウトするしかなく、ともすれば、ラクして得をしている(ように見える)人に、自分はこんなに我慢しているのに! と悪意を向けるようになる。
かくしてヘイトスピーチからベビーカー論争まで、“弱者に厳しい社会”ができあがってゆくわけで、生活保護の抱える諸問題もその構図に見事に当てはまるだけに、一生懸命に向きあえば向きあうほど、正論だけでは解決できない“現実の壁”に葛藤する本作の義経の姿は、私たち自身でもある。
しかし、だからこそ、自分は対象者に巻きこまれて、状況を混乱させているだけではないか? と自問自答する義経に、上司が掛ける「対象者といっしょに悩んで、悲しんで。腹を立てて、喜んで……。いっしょに伴走することによってできることがある」という言葉には、不意を突かれる思い。
“人と関わって生きてゆくこと”は面倒ですべてを放棄したくなることも多々あるが、やっぱりそこには何ものにも代えがたい喜びがあるわけで。
義経が受給者から送られた感謝の手紙に、初めて自分の仕事に“小さな灯”を見出すくだりには、人生を照らし出すものとは案外、そんな小さなことだったりするんだよなーと頷かずにいられない。
本巻中盤からは新章「アルコール依存症編」がスタート。
これまた『失踪日記2 アル中病棟』(吾妻ひでお)ばりの壮絶な実態が描かれそうで、ますます目が離せない!
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69