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『ライアーバード』 第3巻 脇田茜 【日刊マンガガイド】

2017/07/10


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『ライアーバード』

  
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『ライアーバード』 第3巻
脇田茜 徳間書店 ¥620+税
(2017年6月13日発売)


主人公・コトは“音がみえる”いわゆる共感覚の持ち主。って書いてしまうと「うさんくさい!」って敬遠する向きもあるだろうが、マンガはそもそも絵と言葉ですべてを描写する表現形式だ。
だから世のなかにあまたあるどんな作品を読んでいても、読者は作品世界の“音”を“見ている”ことになる。
本作がすばらしいのはテーマの新奇性ではなく、“音の描き方”だ。

多くのマンガはコマとコマ、吹き出しと吹き出しの連続で、キャラクターや物語の“動き”を表現する。
いわゆる“音”という物理現象は、空気の“振動”にほかならない。
よく、ロックバンドの演奏がマンガで描かれる時に、ライブ会場の空気が大きく歪み、たわみ、濁流のように、また弾けるように描かれるのは珍しくない。
聞き手の体感を視覚に転写しているという側面もあるだろうが、あれは比喩的というよりもまず物理的な現象の素朴な描写なのだといえるだろう。

だから、爆音の演奏がコマ枠を突き破り、ゼリー状の原形質のなかにキャラクターが投げ出されて翻弄されるような画面に出会った時に、読者はその描写のスタイルに驚くのではなく、自らもその感触を味わってみるべきなのだ。
そうしてみて初めて、『ライアーバード』が響かせる轟音を堪能することができる。

“音がみえる”。共感覚といってしまえば何か特別なことのように聞こえるかもしれないが、ほとんどの人にとってはそれは感覚異常にほかならず、つまるところ日常生活に支障をきたす。
日常生活に支障をきたした人に対する“普通の人”たちの態度は非常に冷たく残酷だ。
本作は、そんな“普通の人たち”からの冷酷な日常の仕打ちに立ち向かう喜びを繊細に描いている。

「きっとここはステージといっしょなんや みんなといっしょに笑いたいなら 心のなかが熱くても 何かささっても」
「じゃあ いつ なくなるねん ここの中の ぐほいの いつどこで 消えてくれるんや!!」

気持ちを表に出す技術をどう扱うのか。本作がえぐる問題は深い。

なお作中で
「人によって言うことが違うヤツな そういうの空があって地面があるくらい普通にあるから大丈夫」
「お空と地面くらい普通にあるんやあ」
「空と地面がフツーなら雷も地震も避けられない 怒られるのも避けられないフツーのことです 作戦練ってダメージ軽減しましょう」
というやりとりがある。
「みんな違ってみんないい」というは易しだが、実際のところよくないケースが多々あるなかで、不器用なキャラクターたちがそれにぶつかり、かいくぐり、活躍していくさまはグッとくる。
感受性強めの大人全員にオススメ。



<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
Twitter:@nnnnnnnnnnn
Twitter:@n11books

単行本情報

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