『薔薇王の葬列』第2巻
菅野文 秋田書店 \429+税
(2014年9月16日発売)
歴代の英国王でも一番の悪人といわれる、リチャード3世。そのイメージを作ったのは他でもないシェイクスピアだ。史劇『リチャード3世』に、あまりにも悪く書かれているものだから、後世には「本当はいい人では?」という見方も生まれ、善人説を主張したジョセフィン・テイの歴史ミステリー『時の娘』(1951年)が人気になったほど。
なんにせよ、リチャード3世は創作者を惹きつけるオーラがあるようだ。
その魔力に取り憑かれたのか、リチャード3世伝に『オトメン(乙男)』の菅野文が挑戦した。シェイクスピアを原案に、どう作者なりに味つけするのかが最大の注目点だ。
物語は、リチャードの幼少期から始まる。原案ではリチャードは醜い男で嫌われ者だが、こちらは少々イメージが異なる。「男でも女でもない」体を持ち、そのコンプレックスにさいなまれるリチャード。やはり男女の境界線上に立つジャンヌ・ダルクの亡霊にたびたびまとわりつかれる(ちなみにシェイクスピアの『ヘンリー6世 第1部』にも、魔女的なジャンヌが登場する)。
最新2巻では、ランカスター派の王妃・マーガレットとの戦いで、リチャードの希望の光であった父・ヨーク公が瀕死の危機に陥る……。
話はテンポよく進み、リチャードを取り巻く状況もめまぐるしく変わる。ダークファンタジーの耽美さと歴史の迫力、双方を兼ね備えており、読みごたえも十分だ。
シェイクスピアを知らなければ、薔薇戦争の新しい物語として魅力的に映るだろう。もし原典に詳しければ、アレンジでさらに楽しめる。
男女の狭間に立ち、心に闇を抱えるリチャード。彼はどんな運命をたどるのか。
<文・卯月鮎>
書評家・ゲームコラムニスト。週刊誌や専門誌で書評、ゲーム紹介記事を手掛ける。現在は「S-Fマガジン」(早川書房)でライトノベル評(ファンタジー)を連載中。
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