日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ルポルタージュ』
『ルポルタージュ』 第1巻
売野機子 幻冬舎コミックス ¥630+税
(2017年6月24日発売)
恋愛結婚がマイノリティと化した近未来を舞台に、「恋愛とは何か?」という根源的な問いを展開する売野機子の野心作。
2033年の日本では、ネット上で手軽に男女がマッチングできるシステムが構築されていた。
恋愛をオミットして結婚することは“飛ばし”と呼ばれ、わずらわしいことを抜きに男女が最適なパートナーと結ばれることは、もはや当たり前。
そんな世のなかを象徴するのが東京都T市にある「非・恋愛コミューン」だ。
いっしょに暮らしながら“共同経営者”としての結婚相手を見つけることが目的のシェアハウスである。
ところがその「非・恋愛コミューン」がテロの標的となり、多数の犠牲者が出てしまう。
主人公はアンニュイな表情を浮かべる表紙の美女・青枝聖(あおえ・ひじり)。新聞社の社会部に勤める記者である。
聖は自分を慕う後輩の絵野沢理茗(えのさわ・りめい)とタッグを組み、テロの犠牲者全員のポートレイト=人物ルポルタージュを制作することになる。
恋愛が邪魔になる時代。
ここだけを切り取ると、かなりのSF設定だが、婚活アプリ経由でゴールインするカップルが急増していることを鑑みれば、あながち荒唐無稽な話でもない。
お見合い結婚が一般的だった時代に戻っただけともいえるのだ(両親主導のマッチングではあるが)。
惚れた腫れたとは無縁に見える聖だが、犯人の生活を援助していたといわれる青年・國村葉(くにむら・よう)との出会いが、彼女に変化をもたらす。
聖の素顔が現れるとき、冒頭の印象的なシーンにプレイバックする演出が心憎い。
胸が締めつけられるほど愛おしいと想う気持ち。
ひとつずつ相手のことを知っていく喜び。
何気ない仕草や表情を見て思わず抱きしめたくなる瞬間。
この設定だから際立つハッとするような“恋愛”の一場面。
犠牲者のルポルタージュと並行して、読者は主要キャラのルポルタージュを受け取っていくのだ。
<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。