『砂の下の夢 ~空の下の緑~』第1巻
TONO 秋田書店 \429+税
(2014年9月16日発売)
死者の魂を核にして、砂漠に緑のオアシスを作るカップル、チャルとフェイス。2人ともだれもが見惚れる美形なのだが、性別は不明!? それというのも彼らの種族では、ある年齢に達するまで性別を隠すしきたりになっているためなのだ。
ミステリアスな2人が誘うファンタジーの世界は、夢のようでありながら私たちの日常と地続きで、不思議に居心地のよい空間だ。
彼らが作り出すオアシスは、もとが人間なだけに、優しかったりちょっと意地悪だったりと、人格を持っている。チャルとフェイスの仕事は古くなったオアシスを撤収すること。そのオアシスにゆかりのある人間を指名し、見届け人として同行してもらうのだ。
オアシスを撤収する作業は、いわば弔いの儀式。そのオアシスの核となった、かつて生きていた人の人生、そしてオアシスとしての道程を理解し、ていねいに無に帰する。それを執り行うチャルとフェイスの特別な力は、普通の人の想いの力の延長線上にありそうで、親しみを感じさせる。
本作は『砂の下の夢』シリーズ(全2巻)の続編にあたる。両方読めばより楽しめるのはもちろんだが、前作を読んでいない方でも大丈夫。
エキゾチックで洗練されたあっさり味。広い空、広い砂漠に心を解き放つ、やすらぐファンタジーである。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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