日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『乱歩アナザー ―明智小五郎狂詩曲―』
『乱歩アナザー ―明智小五郎狂詩曲―』 第3巻
江戸川乱歩(作) 薫原好江(画) 平井憲太郎(協) 講談社 ¥650+税
(2017年7月14日発売)
『男の子には秘密がある』『キス・アンド・ライド』の薫原好江が、江戸川乱歩の小説に挑み、もうひとつの乱歩の世界を産み出した。
それが本作『乱歩アナザー』である。
素材となるのは、乱歩の代表作『黒蜥蜴』『心理試験』『魔術師』といった作品。
最新刊の第3巻は、1巻すべてを費やして、復讐鬼・魔術師と名探偵・明智小五郎との戦いが描かれる。
原作小説を読んでいなくても、ミステリーマンガとして充分に楽しめるが、江戸川乱歩の作品に親しんでゆけば、さらにおもしろさはひろがっていく。
たとえば、各巻のカバーには、必ず小さく本が描かれている。
よく見てみると、その本の開かれた頁には、なんと『黒蜥蜴』『心理試験』『魔術師』といった、原作となった小説の一節が、忠実に書かれているのである(すごく小さい活字で!)。
また、『乱歩アナザー』には、脇役として警視庁の北川刑事という人物が登場する。
堅物の北川と、明智のかけあいも楽しみどころなのだが、じつは北川刑事とは明智小五郎が登場しない『孤島の鬼』(naked apeや環レンなどのコミカライズがある)で重要な役割を果たす人物なのだ。
『乱歩アナザー』では、そうしたかたちで、乱歩世界の再構成を行っており、原作を読んでいれば、そうした部分もおもしろがれるのである。
『乱歩アナザー』は、7月に刊行された、この第3巻にて完結した。
この機会に、もうひとつの乱歩の世界を楽しんでいただきたい。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。「2017本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。