日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『旅の肴~十返舎一九 浮世道中 旅がらす~』
『旅の肴~十返舎一九 浮世道中 旅がらす~』 第1巻
久住昌之(原作協力) 魚乃目三太(画) 幻冬舎コミックス ¥630+税
(2017年7月24日発売)
『孤独のグルメ』の久住昌之と『しあわせゴハン』の魚乃目三太による、新たなタッグ作『旅の肴~十返舎一九 浮世道中 旅がらす~』の第1巻。
のちに浄瑠璃作者・十返舎一九(じっぺんしゃ・いっく)として名を馳せる「与七」は、当時人気の版元・蔦屋重三郎の命を受けて、浅草寺の修行僧・八舟とともに諸国の名酒、名物料理、名産品を絵とともに1冊にまとめるガイドブック制作のため旅に出る――。
吉原の深川めし、日本橋のねぎま鍋、品川の天茶漬け、川崎の万年屋の奈良茶飯、小田原の鯵、箱根峠の馬子めし……。次々に登場する宿場のご当地グルメに生唾ゴックン。
時代が違えども旅の楽しみはやはり食だよな~と、古き時代の人々ががぜん身近に感じられる。
『昼のセント酒』でもしみじみと味わい深い名タッグを見せてくれた久住・魚乃目両氏だが、今回も食だけでなく、旅先での失敗談や当時の庶民のささやかだが楽しい暮らしぶりを生き生きと愛をもって描いているのは、さすが。
エピソードの合間に筆記用具の「矢立て」や携帯用の小銭入れ「早道」など、当時の旅の必需品が紹介されているのも楽しく、マニア心をくすぐる。
じつはエッセイ『野武士、西へ 二年間の散歩』で東海道を歩いた経験もある久住氏。
ミニコラム「東海道を歩いて分かった!!」の、当時の東海道はものすごい人で混雑していたため、今も東海道沿いには履物屋が多いらしい――なんてトリビアも、実際に氏が現地で採取したネタだからこそ、説得力があっておもしろいのだ。
江戸随一の料亭で「与七」こと十返舎一九と葛飾北斎、滝沢馬琴、喜多川歌麿、東洲斎写楽らが集いし夜を描いた「特別編」も、ロマンたっぷり。
読めば東海道の旅に出かけたくなる!
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69