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『阿・吽』 第6巻 おかざき真里(著) 阿吽社(監) 【日刊マンガガイド】

2017/08/20


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『阿・吽』


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『阿・吽』 第6巻
おかざき真里(著) 阿吽社(監) 小学館 ¥648+税
(2017年6月12日発売)


「橘逸勢」という人名、読めるだろうか? どんな人物とされる?
答えは「たちばなのはやなり」。空海、嵯峨天皇と並ぶ「三筆」のひとりであり、平安初期の政変にも関わるので日本史のテストにときどき出る。

『阿・吽』は平安仏教の二大巨頭である空海と最澄の物語だが、そのまわりにいる人々もまた、魅力的に描き出されている。

2人は別の船だが、同じ遣唐使の一行となる。空海の乗った船は遭難しかけながら、きらびやかな長安へたどりついた。同舟していたのは、冒頭の橘逸勢や、日本で唯一の三蔵法師となった霊仙和尚らだ。

霊仙が空海とともに、唐の寺にて般若三蔵なる高僧の言葉を受けながら真理へたどりつく描写も圧巻だが、能書家同士である橘逸勢と空海の交流は、肩の力を抜いた雰囲気である。
新天地で様々なものを貪欲に吸収する空海に比べ、橘逸勢は気乗りがしないままに唐へ渡った凡人だ。しかし愛嬌があり、知りあった契丹人の子・リィフォアを守るなど勇猛な一面もある。

さらに、橘逸勢はひょんなことから、平安文学に大いに影響を与えた唐代の詩人・白居易(白楽天)と知りあい、事態は意外な方向に。白居易の代表作『長恨歌』の一節「梨花一枝、春、雨を帯びたり」は、『枕草子』でも引用されたほどに有名である。しかし、その文の真の作者は?
非常に大胆な解釈だが「そうだったらおもしろい!」と胸が熱くなる。たしかに同時代を生きた人物であり、ありえないとはいいきれないのだ。スター同士の邂逅が、さながらモンスターバトルの様相を呈すのも見どころ。歴史上の人物が美しく、ときに狂気をはらんで肉付けされる。

しかし、入唐前にお互いを認めあった空海と最澄が、この地でともに高みを目指そうとした矢先に、別離を予感させる展開が……。

史実でも彼らの決別は有名だが、(時期はもっとあととされる。ちなみに、親交を深めるのも帰国後とされる。)『阿・吽』の2人も、道をわかってしまうのか。特に繊細な最澄が深く傷つきそうだが、その先にも真理があるならば、ともに見届けたい。



<文・和智永妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。

単行本情報

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