365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
9月1日はおわら風の盆が始まる日。本日読むべきマンガは……。
『月影ベイベ』 第1巻
小玉ユキ 小学館 ¥429+税
本日9月1日から3日までの間、富山県富山市八尾地区にて、「おわら風の盆」が開催される。
諸説あるが、旧暦の二百十日に合わせた日取り、といわれている。
民謡「越中おわら節」にのせて、男女の踊り手が町中で舞う風流な祭である。
「越中おわら節」は、三味線や太鼓のほか、日本の民謡ではめずらしく、胡弓を使って演奏され、哀愁がただよう独特の節回しが耳に残る。
小玉ユキの『月影ベイベ』は、著者が「おわら風の盆」に魅せられたことから、それをモチーフとして発表された作品である。
主人公は八尾地区で育ち、「おわら」を愛する高校生の佐伯光。
光は転入生で無愛想な峰岸蛍子が、ひとりで美しい「おわら」を踊る姿をかいま見て、気になってしまう。
しかし、蛍子は、光のおじである佐伯円と、何か深いかかわりがある様子で……。
校内でおわらを踊る6月の体育祭から始まり、あがり症ゆえに人前で踊れず、町の人とも距離をおいていた蛍子が徐々に打ち解けていくのと同時に、円と蛍子の過去も明かされていく。
光は傷つきながらも蛍子を見守るが、彼の芯にあるのは「おわら」への深い愛だ。観光客への見世物としてでもなく、伝統芸能を守る義務感でもなく、ただ、年長者の踊りを見て憧れた気持ちを素直に持ち続け、体を動かし練習に励む。光だけでなく、地元民一丸となっておわらを愛し、よりすばらしいものになるよう、進化しながら受け継いでいくさまが胸を打つ。
読めばすっかり「おわら」のとりこになってしまうだろう。堅実な県民性で知られる富山県にて、老いも若きも数日間の祭に夢中になる、そんな意外性もいい。
今年の5月に刊行された最終巻(第9巻)では、ちょうど9月の「おわら風の盆」本番を描いている。この開催時期の最中に、彼らの想いの行方を見届けるのが、最高のマンガ体験になりそうだ。
<文・和智永妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集。とある学生街に在住し、いろいろと画策(だけ)しつつ、男児育てに追われる日々です。