日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『あたらしいひふ』
『あたらしいひふ』
高野雀 祥伝社 ¥680+税
(2017年9月8日発売)
『さよならガールフレンド』で脚光を浴びた新鋭・高野雀の最新作。
表題作「あたらしいひふ」は、著者の同人誌時代の作品を大幅に書き直したもので、「女と洋服」のややこしくも愛すべき関係をテーマにした連作だ。
「女の子なんだからもっとカワイくしたら?」なーんていわれて、相手に悪気はないんだろうけどモヤモヤしてしまった経験のある人は、きっと少なくないだろう。本作に登場するのも、そんなモヤモヤを抱えた女の子たち。
ひそかに想いを寄せていた先輩から「服とかもうちょっとかまったら?」と言われて「なんで女だと服を構わなきゃいけないの…」と思いながらも試行錯誤を繰り返し、何を着たらいいのかわからなくなった経験から、現在も制服のように黒ばかり選んでいる、ぽっちゃりメガネで地味系の高橋。
自分に魔法をかけてくれる洋服を求めておしゃれする、長身スリムでかっこいいモード系の渡辺。
ファッションも生き方も「無難」を脱せない自分にコンプレックスを抱く(なのに同性からは「男ウケいいよねー」と嫌味をいわれる)、清楚なコンサバ系の鈴木。
自分の「かわいい」が世間と相容れないことを知りつつ、メイクやネイルを“盛る”ことで武装する、ぶっちゃけギャル系の田中。
同じ「女」でありながら、見た目も価値観も見事にバラバラの4人が可笑しく、彼らの主に外見に対する「周囲の評価」と「本人の本音」がまた、あるある~なリアリティ炸裂で興味深い。
たとえば渡辺は、ある人から見れば「かっこいい」のだが、ある人から見れば「派手」だったり「モテ的にはマイナス」だったり。見た目は同じでも受け取り方は様々で、それがまた、彼女の「内面」とは必ずしも一致していないあたりが、「女と洋服」のややこしくもおもしろい部分なのだ。
女の子がみんなおしゃれが好きなわけでもなければ、女だからという理由で美しく装わなければいけないわけでもない。それでもやっぱり、いぜん「女は見た目」といった価値観は呪いのように世のなかに蔓延していて、一方で「女は外見ばっかりチャラチャラして(=中身がない)」といった偏見もまだまだ根強くて(もちろん、男が同様のケースにさらされることもあるが、やっぱり女性のほうが抑圧ポイントは多い!)。
そんな現実は悲しいかな、簡単には変わらない。
だからこそ、他人が押し付ける「女/男らしさ」に屈して、自分の欲望や可能性にフタをしたり、「自分らしさ」に固執するあまり不自由になるのもつまらない。
というか、そもそも「自分らしさ」なんて、じつは人間の細胞が半年で入れかわってしまうように、日々揺らぎ変化してゆくものなわけで。
その日の気分やT.P.O.でファッションやメイクを変えるように、私たちはきっと、自分で自分を自由に更新していける――。
そんな希望を託したエンディングは、著者の前作『13月のゆうれい』にもたしかに通じるもので、すべてのモヤモヤを抱える女の子に一歩を踏みだす勇気を与えてくれる。
そのほかでは、高校の同級生だった30代男子の交錯する想いを描いた「Recycled Youth」もせつなイイ。
著者の原点が伺える全4編だ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。『音楽マンガガイドブック』(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69