日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ラッパーに噛まれたらラッパーになる漫画』
『ラッパーに噛まれたらラッパーになる漫画』
インカ帝国 日販アイ・ピー・エス ¥540+税
(2017年11月15日発売)
ここ最近、ラップやフリースタイルを取り扱ったマンガが非常に増えてきている。
人気ラッパー・サイプレス上野が監修を務め、作中で描かれるラップバトルを実際のラッパーにそのまま実演させた『サウエとラップ~自由形~』、かつて『デトロイト・メタル・シティ』でデスメタル世界を制覇した若杉公徳による『ライミングマン』、般若とR‐指定が監修として参加したJKたちの百合系ラップマンガ『キャッチャー・イン・ザ・ライム』、そして『capeta』の曽田正人が女子高生を主人公に描く最新作『Change!』。
世はまさに大HIPHOP時代!
しかし、なぜここまでラップバトルマンガが増えたのか。
MCバトルにはマンガの王道である「努力・友情・勝利」の要素が詰めこまれているからか?
それとも漫画家は夜更かしな職業だから、つい休憩中に「フリースタイルダンジョン」を見てしまうからか?
ともかく、今世間ではラッパーを舞台にしたマンガのムーブメントが現在到来しているのだ。そんななかでもひときわ異彩を放つドープな作品がこいつだ!
『ラッパーに噛まれたらラッパーになる漫画』!
内容はまさにタイトルのまんま!
日本中に未知のウィルスが発生し、感染した者はだれ彼かまわずラッパーになり、周囲の人間にラップバトルを仕掛けていく。負けた者は噛まれてウィルスに感染し、ラッパーになってしまう……かくして日本中は地獄のクラブハウスと化したのだ……。
要するにゾンビ系の作品のゾンビをそのままラッパーにした作品である! すごい! ほかの作品が実在のラッパーに監修してもらったりして、HIPHOP文化へのリスペクト精神を前面に押しだしているのに、この作品はラッパーたちから怒られそう!
ともかくウィルスの感染力は非常に強力で、感染したら最後、そこらへんのおじさんやおばさんまでもが突然下手くそなラップを刻み始める。ちょっとした地獄だ。
さらに、この作品のラッパーたちは強い。車に轢かれても死なず、爆発に巻きこまれて火だるまになっても死なず、肉体に大きな損傷を負ってもマイメンからのリスペクトによって回復してしまうのだ! まったく意味がわからないが並みのゾンビよりもはるかに強力だぜ!
そんな不死身なラッパーたちを撃退する方法はひとつだけ!
それはラッパーが挑んでくるラップバトルに勝利することだ!
……えっ、それって結局勝っても負けてもラッパーになるしかないってことじゃん……。じゃあもう人類滅ぶしかないじゃん……。
そんなどう考えてもギャグにしか思えない本作なのだが、ときにゾクリとするようなホラー描写があったり、設定の異様さのせいで先の展開が読めなかったり、ヒロインであるみのりちゃんの方言が普通にかわいかったりと、なかなかあなどれない作品なのだ。
ちなみに著者はおまけマンガで自分のラップの知識が浅いことを不安に感じているようだが、そんなHIPHOPの知識に自信のない人たちにおすすめなのが、『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』!
これ1冊でHIPHOP用語や文化の基礎知識から、日本語ラップの名盤から現在注目のアーティストまでひととおりチェックできるのよ(唐突なステルスマーケティング)!
<文・犬紳士>
養蜂家。好きな野鳥はメジロ。
Twitter:@gentledog