日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい！WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー！

今回紹介するのは、『あなたのことはそれほど』

『あなたのことはそれほど』 第6巻
いくえみ綾 祥伝社 ￥920+税
（2017年11月20日発売）

2017年4月にドラマ化され、東出昌大の怪演も手伝って大きな話題となった『あなたのことはそれほど』、通称“あなそれ”の最終巻。

白い表紙の第1巻から始まり、第2巻、第3巻、第4巻、第5巻と少しずつ暗い影を強めていったが、この第6巻は第1巻と同様の白いトーンに戻った。
穏やかな美都の表情がすべてを物語るように、2組の夫婦はそれぞれの気持ちに決着をつけることになる。

第1話が掲載されたのは「フィール・ヤング」2010年10月号。
最終回が同誌2017年10月号なので、連載は足かけ7年にわたった計算。
序盤のエピソードで美都が使っているのはガラケー。こうした小道具に7年という月日を感じさせる。

「あとがき」によると、いくえみ綾はもともと第1話を読みきりのつもりで描いたらしい。
ちなみに第1話は初恋の相手である有島と偶然再会し、ワンナイトラブを楽しんだ美都が、帰宅後にしれっとディナーをしながら夫・涼太の顔を眺めつつ、「ふつうの人／すごくいい人／二番目に好きな人」と脳内で冷静に評価を下し、ガラケーにかかってきた（有島からの）直電に出るシーンで終了している。

なるほど、これで終わりでもおかしくはないが、半年後の2011年6月号から不定期連載がスタート。
そうこうしているうちに世は（おもに芸能界は）空前の不倫ブームとなるのだからタイミングとは不思議なものだ。

ただし本作において不倫はモチーフではあるがテーマではなく、「不倫ダメ、絶対」という正義感は微塵も感じない。
あくまで「小・中学時代から恋焦がれていた男子に既婚者同士として再会したとき、ヒロインが、その片想いの相手が、どういう行動をとるのだろう？」というキャラクターの心理や行動を描いているにすぎない。
もちろん不倫をされるほうである双方の夫（涼太）・妻（麗華）も同様だ。

そういう意味ではストーリー性よりも、キャラクター性の強いマンガであり、もしかしたら終盤の展開に不満を持つ読者もいるかもしれない。
個人的にはモヤモヤが残るくらいでちょうどいいと大納得。こんなにぐちゃぐちゃした関係になって、最後は全員スッキリ！ ……なんて、ちゃんちゃらおかしいもん。

ドラマの最終回では描かれなかった涼太のその後が「サイドストーリー」として巻末に収録されていることがうれしい。
そうだ涼太、時が経てば美都のことも“あなたのことはそれほど”だよね。

＜文・奈良崎コロスケ＞
中野ブロードウェイの真横に在住。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。