『五時間目の戦争』第1巻
優 KADOKAWA/角川書店 ¥580円+税
(2014年10月4日発売)
アニメーション映画『おおかみこどもの雨と雪』のコミカライズを手がけた優が、「ヤングエース」で連載中のオリジナル作品。
戦争という名はつくものの、本作は「銃後」の世界、つまり戦下における前線ではなく後方が舞台となっている。
主人公の双海朔は、瀬戸内海の離島に住む陸上が得意なスポーツ万能の中学男子。いつもと変わらぬ日常を送っていた朔だが、3年生への進級を機に先生が発した「戦争やるで」のひと言で、ありきたりだった日常は一変。
クラスから選ばれる出征には、東京からの転校生・篠川零名が任命される。いやがる零名のかわりに出征を志願する蒴だったが、なぜか先生からは蒴と、料理が取り柄で蒴の幼なじみである安居島都の2名だけは、今後も出征の資格はないと言われ……。
戦争といっても相手は人間ではなく「謎の生命体」。なんのために人間を襲うのかという部分は明かされはしないものの、1巻の最後は、この戦争に対する衝撃的な説明で幕を閉じる。
出征を志願するも蒴と都だけは出征の資格が与えられないなど、まだ始まったばかりとはいえ、謎の多い作品だ。
一方、戦争というテーマが銃後の世界ということもあり、戦いだけでなく主人公を取り巻く恋模様も重要なエピソード。
出征を言い渡された零名と零名を守りたい蒴、そして旅立つ零名のために心を込めてご飯を作る都が、今後どのような関係になるのか。細かな心理描写は今後に期待しつつ、優ならではの美しいイラストとキャラクターによるラブコメとしての要素も楽しみだ。
さらに重要なのは本作で描かれる食事。料理自慢の都が家族や友だちのために心を込めて作る素朴ながらも愛情がこもったご飯の描写や、それをおいしそうに食べる零名の表情がじつに魅力的で、戦争というテーマながらもどこか温かさが感じられるほど。
始まったばかりの恋模様、謎の生命体との戦争、そして料理という3つの柱がどのように今後展開していくのか注目の作品だ。
なお、本作は「ニコニコ静画」で公開されている「角川ニコニコA」で、第1話が特別公開されている。
ニコニコ動画のアカウントがあれば無料で読めるので、本作が気になる人は、まず無料の第1話を読んでみるといいだろう。
<文・甲斐祐樹>
IT系ライターながらマンガも大好き。著書は『スマホ&タブレット“二刀流"仕事術。』『Chromecastの使い方』など。個人ブログは「カイ士伝」