日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ちいさこの庭』
『ちいさこの庭』
小玉ユキ 小学館 ¥429+税
(2018年2月9日発売)
『坂道のアポロン』や『月影ベイベ』などで知られる小玉ユキの新作は、「ちいさこ」をモチーフにしたファンタジックな短編連作だ。
「ちいさこ」とは、いわゆる小人、コロボックルのように手のひらに収まるような身の丈の、エスニックな装束に身を包んだ人型の存在であり、ごくわずかの人間にだけ姿が見える。
彼らに似た者が登場する既存の作品には「子どもにだけ見える」という設定が多く、その純粋さを愛おしむ一方、大人にはやや苦い喪失感も禁じえない。
実際、「garden1」ではちいさこの少年・テンが見える少女の留奈と、テンが見えない母親の対立が描かれる。
一見王道の展開に思えるが、彼女たちの和解と、成長した留奈のテンとの交流は、大人の胸にも響くのだ。
「garden2」では、ちいさこが見えるのは「恋を知らぬ者」と明かされる。
モテ男である編集者の新井に、ちょっとおせっかいな、ちいさこのイグナが見える、ということは……? ここで、ぐっと「大人のための寓話」に引きこまれる。
「garden3」は不登校の少年・須田と女性のちいさこ・ルンダとの出会い、「garden4」は「1」に登場したテンの寿命の長さを感じさせる、江戸時代の年の差夫婦のお話だ。
人間と小さき者との交流から生まれる、温かい気持ちを描き出すかたわらで、恋を知って彼らが見えなくなることも是としている。
最終話の「garden5」では、「ちいさこ」が、「死を迎えようとしている者」にも見えることが明かされ、若い頃に出会ったちいさことの思い出を一生涯かけて描き続けた絵本作家の、決して孤独ではない旅立ちに泣ける。
ちいさこたちもまた、人間と関わった記憶が心の支えになっているのだ。
読み手が、見える側か見えない側か、とのジャッジにさらされる痛みは、ない。
大人になってからこそ味わえる、極上の物語だ。
<文・和智永妙>
「このマンガがすごい!」本誌のほかWEB記事などを手がけるライター、たまに編集。とある学生街に在住し、いろいろと画策(だけ)しつつ、男児育てに追われる日々です。