『フジキュー!!! ~Fuji Cue's Music~』第1巻
田口囁一 講談社 \429+税
(2014年10月9日発売)
音楽マンガのおもしろさは、音の聞こえない媒体だからこその熱気が読者に伝わることだ。
主人公のフジキューこと不死原求(ふじわらもとむ)は、ひょんなことからJAM(国立音楽アカデミー)に受かってしまう。
JAMはどのくらい能力があるかで何もかもが決まる超実力主義の学校で、テストの点数や授業態度は実践に役に立たないと言いきる。CDを売る、賞をなど、音楽活動でお金(学園内資金)をかせげないと退学。芸術性を求めて生きるなんて許されない。仕事にするための学校だ。
Fコード(人差し指で弦すべてを押さえる必要がある、初心者最初の難関コード)も押さえられないド素人のフジキューは、ピアニストの少女・星河うたと組むことになる。
ところが彼女は、人前で演奏ができないという致命的な欠点を持っていた……。
フジキューの行動は常にめちゃくちゃ。ギターの弦は全部切ってしまうなんて演奏以前の問題。しかし彼は情熱だけで窮地を乗り切ってしまう。
はたから見ても2人のスタートは最低中の最低。それでも、どん底だとはまったく考えていない。
バンド経験がある人やライブで音楽を聞いたことのある人なら、練習量やテクニックにプラスされる“なにか”を感じたことがあるだろう。
今は“なにか”しかない。それを人に伝える情熱を、不死原は持っている。彼が星河だけでなく様々な人を巻き込んでいくテンションは、まさにライブの熱気そのもの。
不死原がパンクな勢いの持ち主だとしたら、星河はバラードの美しさを持った可憐な少女。この組み合わせに、正確なテクノのようなベーシストが参戦。様々なジャンルの音楽をいっぺんに聞いているかのような、楽しい作品だ。
ちなみに作者の田口囁一は、バンド「感傷ベクトル」のミュージシャン。プロミュージシャンがマンガで「音楽を仕事にすること」を描くのは興味深い。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」