『林檎の木を植える』
志村志保子 集英社 \419+税
林檎とキウイを一緒に置いておくと、キウイの酸味が抜けて甘くなる――。
11月5日は「いい・りんご」にちなんで青森県が制定した“いいりんごの日”ということで、林檎の豆知識から入ってみたが、そんなことを教えてくれるのは、志村志保子『女の子の食卓』。食べ物をテーマに女の子たちの内面を描いた連作集で、その一篇「リンゴを一緒に入れたキウイフルーツ」は、過去の小さな後悔をセンチメンタルに描いた名編だ。
そんな作者にとっての初長編が、まさに“林檎”がタイトルになった『林檎の木を植える』。
物語は、主人公・みいの幼なじみである真由果が高3の夏、バス事故で死去するところから始まる。彼女が乗っていたのは誰も行き先に覚えのないバスで、なぜ真由果はそこで命を落とすことになったのか。あることから、距離感のできていたみいと真由果。
みい、そして同じく幼なじみの聖奈は、真由果の秘密を知る槙という女性に出会い、真由果に思いを馳せながら、昔の自分も振り返ることになる。
親友の死の真相と、隠し続けてきた本心に迫っていく物語で、ミステリーの要素もある本作。タイトルのモチーフになっているのは、「たとえ明日世界が終わるとも、私は今日林檎の木を植えるだろう」という神学者マルティン・ルターの言葉である。
ちなみに前出の「リンゴを一緒に~」においてリンゴは、キウイの成熟を促すもの=何も知らなかった少女に大人の世界を教える禁断の果実として扱われているが、本作では女の子たちの深層心理がえぐられていくなか、希望の象徴として描かれている。
最後にみいが知ることになる、真由果の思いとは?
甘酸っぱくて、さわやかだけれど香りの強い林檎。あらためて林檎は、女の子そのものとも思える果物だ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Autumn」が9月17日に発売に。『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』パンフも手掛けています。