『セントールの悩み』第9巻
村山慶 徳間書店 \620+税
(2014年12月13日発売)
人馬のパンツってどんな形してると思う?
ヒロインの君原姫乃は人馬、いわゆるケンタウロス。周囲にいるのは、翼人、竜人、長耳人、角人、人魚などなど。みんな一緒の世界で暮らしている。
人馬の姫乃は、身体が大きく場所を取り、服は着づらく、体重は重い。しっぽのある種族は、下着を見せずに服から尾を出すのに苦労する。羽のある種族なら手入れに手間がかかる。
この作品では、多様な種族が生活するための工夫を、具体的に描いていく。人馬のためのおしゃれな服は、たくさん流通している。人魚が通うための水中学校は別個に用意されていて、交流授業もある。
みんなバラバラだから、特別扱いもしない。ちょっと変わったノーマライゼーション表現だ。
それぞれの種族の進化の過程は、作中できちんと体系化されている。種族による争いや差別問題が歴史上にあったことも描かれる。差別が払拭しきれない現実社会への皮肉を含んだ、SF作品とも読める。
とはいっても、種族間に生じる問題の表現は、テレビや新聞内の出来事や、学校で習う話程度におさえられている。あくまでも強調されているのは「個々のかわいさ」だ。
種族の違いから生じる戦いと、思春期に陰毛やワキ毛をどうするかの葛藤の比重は、あまり変わらない。
第9巻では、姫乃が異世界に飛ばされる、という意外な展開に。その異世界とは、四肢人種の世界、つまりこちらの人間社会。大事件だ。
しかしこの事件と並行して、飄々と普段の日常も描かれ続ける。
作者の目線は常にフラット。
だからこそ、「種族」「個性」というテーマを、気軽に読むことができる。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」