『あっかんべェ一休』第1巻
坂口尚 講談社 \874+税
1月9日は「とんちの日」。
みなさん、もうピンときていると思うが……「1」と「9」の語呂合わせ、とんちで有名な「一休さん」が由来である。
アニメ『一休さん』もよく知られていることもあり、だれでも一休さんのとんち問答を、ひとつくらいは知っているのでは。知恵のある子どもだという評判を聞きつけた将軍・足利義満に招かれ、虎の屏風を前に「この虎をつかまえてみよ」と命じられ、縄を手にして「それではまず虎を追い出してください」と返したエピソードなどは、特に有名だ。
しかし、大人になった一休は、その賢さゆえに仏道修行に真摯に取り組み、なかなか波乱万丈な人生を送った人物なのである。
本作は、「破戒僧」などとも言われた一休の生涯を描いた本格評伝マンガ。
一休の父は後小松天皇であるが、母は南朝の血筋であったために、一休を身ごもると帝の地位を脅かす可能性があると疑われ、宮廷を追われてしまう。一休を危険から遠ざけるための苦肉の策で、母は幼い息子を出家させたのだ。
“とんち坊主”としてならした少年時代を経て、ひと一倍勉強熱心だった一休は、理想を求め新たな師のもとに飛びこんでいく。権威を否定し、庶民やさまざまな人に混じって暮らしながら、仏教を説く。
父である天皇との邂逅、自殺未遂……しかし晩年には、なんと50歳ほども年の離れた美しき旅芸人と、ラブラブの同棲生活!?
多くの人に慕われ、尊敬されたが、決して優等生的ではなかった一休、そして仏教界の人々、庶民の暮らしが生々しく描かれる。
一休の生涯を通じて、戦国時代へと連なる時代の空気を多面的にとらえた作者の視点の確かさにうならされる。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
「ド少女文庫」