『愛…しりそめし頃に… 満賀道雄の青春』第12巻
藤子不二雄A 小学館 \1,068+税
1945(昭和20)年9月、富山県高岡市の定塚国民学校・5年3組の教室でひとりマッカーサーの似顔絵を描いていた転校生は、ある少年から声を掛けられる。
「おまえ まんがうまいんだなあ」と感心する少年の名は、才野茂。
「どうだい おれの似顔描いてくれないか?」……そう言われて才野の顔を描いた転校生の名は、満賀道雄。
これは著者の自伝的作品である『まんが道』で描かれた、満賀道雄=藤子不二雄Aと才野茂=藤子・F・不二雄の、人生における出会いの場面だ。
この出会いから始まった、二人三脚の漫画家・藤子不二雄。2人での活動は1987(昭和62)年まで続くことになるが、1月30日は、そのコンビ解消が発表された日。
同年のこの日に独立を発表して、翌1988(昭和63)年1月25日に“藤子不二雄が2人に独立する記念日”のパーティーを開いている。
コンビ解消について藤子不二雄Aは、「それまで愉快な少年漫画ばかり描いてきたぼくが、人間の持つマイナーな欲望を描くことがおもしろくなってきてしまったのだ」とエッセイ集『Aの人生』に記している。
しかしコンビ解散以前から、「藤子不二雄」名義であっても、各々の主導で別々の作品を描いてきていた2人。それでもコンビで活動してきたのは、お互いに対する尊敬あってこそのものだったのだろう。
そんな2人の青春時代を、よりリアルなものとして知れるのが、『まんが道』の第4部に当たる『愛…しりそめし頃に…』だ。
本作は、1956年から連載スタート。満賀を主人公に、漫画家としての葛藤と成長、仲間たちとの交流、そして恋が語られる。
『まんが道』と比べ、主人公たちが等身大の青年として描かれているのが本作。満賀と才野は同じアパートのトキワ荘に住んでいるが、それぞれ別部屋で暮らし、お互い単独で作品を描いている。
それでももちろん友情は続いていて、お互いをコンビとして支え合う姿はそこにある。
また、単行本第2巻には、藤子・F・不二雄の訃報に際して、彼を忍んで藤子不二雄Aがこれまでを回想した特別編「さらば 友よ」も収録。
『まんが道』の完結編となる本作で、あらためて藤子不二雄という偉大なるコンビ、そしてその仕事と青春に思いをはせてみてはどうだろう。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Autumn」が9月17日に発売に。『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』パンフも手掛けています。