『ピカロ』第1巻
白瀬透 小学館 \552+税
2000年2月13日、「グリコ・森永事件」が時効を迎えた。
1984年3月18日21時頃、西宮市の自宅で子どもたちと入浴中だった江崎グリコの江崎勝久社長を全裸のまま拉致した犯人グループは、現金10億円と100キロの金塊を要求した。
運搬の困難な身代金を本気で要求していたのか疑問が残るなか、グリコはすべて用意。しかし江崎社長は自力で脱出を敢行、3日後に大阪貨物ターミナル駅で無事に保護される。
だが、それは序章にすぎなかった。
その後、江崎社長宅に6000万円の支払いを要求する脅迫状が届き、マスコミには「かい人21面相」を名乗る犯人グループからの挑戦状が送りつけられる。
現金の受け取りに失敗した犯人グループは、江崎グリコ本社放火事件、兵庫青酸菓子ばらまき事件、寝屋川のアベック襲撃事件、丸大食品脅迫事件、森永製菓脅迫事件、ハウス食品脅迫事件、不二家脅迫事件、駿河屋脅迫事件といった脅迫を立て続けに起こし、世間を震撼させた。
しかし1985年8月、「くいもんの 会社 いびるの もお やめや」と、突然の終息宣言が出される。
130万人体制で捜査に当たった警察は、なにも解明できぬまま時効を迎えてしまった。
白瀬透の『ピカロ』は、この戦後最大の劇場型犯罪をモチーフにした野心作である。
うだつのあがらないフリーライターの安住純が、1984年の大阪にタイムスリップ。そこでは「昭和最大の未解決事件」と呼ばれることになる「オギリ・東亜事件」が着々と進行しつつあった。
はたして真犯人は誰なのか? どのようにして行われたのか? 真相をスクープすべく、安住が動き始める。
タイムスリップをしたからといって、直接関わりのない大事件の深部に食いこむのは至難の業。調べを進めていくうちに、いかに未来人といえども太刀打ちできないほどの大きな闇が待ち受ける。
その闇は戦中の満州にまで広がり、驚くべき因縁の連鎖が安住を翻弄する。
1984年=昭和59年という点を頭に置いて読むこともポイント。
21世紀とそこまで乖離しない、バブル前夜の浮かれた時代である一方、太平洋戦争の終結からまだ40年足らずという、昭和の終盤なのである。その時間の流れにどっぷりと浸りつつも、ひとたび絡み合う迷宮の紐がほどけ始めるや否や、物語はイッキに加速。
読み終えた瞬間に、ぷは――っと息をつくような、全3巻の本格ミステリーだ。
<文・奈良崎コロスケ>
68年生まれ。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。4月4日公開・松尾スズキ監督『ジヌよさらば~かむろば村へ~』の劇場用プログラムに参加します。
「ドキュメント毎日くん」