『ヒナまつり』第1巻
大武政夫 KADOKAWA/エンターブレイン \620+税
3月3日といえば「耳の日」をはじめとしていろいろと記念日の多い日なのだが、やっぱりなんと言っても「雛祭り」でしょう。
雛祭りの起源は諸説あるのだが、もっともポピュラーなのが、平安貴族の子女が紙人形を使って遊んでいた「ひいな遊び」に由来するという説。
それが江戸時代になって節句のお祝いと結びつき、今の形が定着したと言われている。
そして雛祭りにちなんだマンガということで、『みなみけ』や『みつどもえ』のような女の子ばかりの姉妹が主役の作品を紹介しようかな……とも思ったのですが、ここはタイトルがズバリすぎる『ヒナまつり』を外すワケにはいかないでしょう。
あらためて『ヒナまつり』のあらすじをざっくり紹介しておくと、ある日突然、ヤクザの新田の部屋に、見た目は少女のようだがすさまじいパワーの超能力を使うヒナが出現し、そのままダラダラと住みついてしまうというコメディ作品。
いわゆる「空から魔法少女が!」的なパターンで、常識を知らない女の子に周囲がふり回されるという点でもド定番のシチュエーションだったりするのだが、これが文句なしにおもしろい!
本作ならではのポイントとして挙げられるのは、基本的にはドタバタコメディでありながら、妙に説得力のあるウラ社会の描写。
本来はヤクザといっても・インテリヤクザ・の新田が、ヒナのサイコキネシスによって対抗組織を壊滅させてしまったことから“超武闘派”として一目置かれる存在になってしまう最初のエピソードといい、ヒナを追って現れたやはりサイコキネシスの使い手であるアンズが、もとの世界に戻れずにどんどんホームレスの生活に順応していく展開といい、意外なほどしっかりとヤクザやホームレスの世界のルールが描かれているのが、ちょっとした隠し味として効いているのだ。
そこに、ムチャクチャなようでいて、どこか知りあいにいそうな人情味のあるキャラクターたちが絡んでくるのだから、おもしろくないハズがありません!
そしてこの記事が配信される日に、じつはマンガのほうも雛祭りにちなんで最新刊の8巻が発売されるので、がぜん注目度も高まるというもの。
内容はまったく雛祭りっぽくないけど、そのギャップも魅力のうちです(きっぱり)。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。